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“雑草集団”はなぜ強くなった? 全国準V・福井工大の大躍進…下野監督「辞める理由じゃなくて、続ける理由を探そう」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/06/15 11:00
福井工大を全国準優勝に導いた下野博樹監督。登録選手全員を起用するなど、チーム一丸となって決勝まで駒を進めた
こうした土台となる人間形成に加え、近年はNPBを経験したコーチたち指導にも力が入れられた。
オリックスなどで活躍した水尾嘉孝氏は3年前から投手を指導。全国大会のトーナメントを1人のエースに頼るのではなく、継投で勝ち上がるべく、タイプの異なる複数の投手を育成してきた。
また、今春からは広島などで代打の切り札として活躍した町田公二郎氏が加入。投手の高速化が進む中で、スイングスピード160キロを目標に置いた。下野監督が町田氏に「魔法をかけてくれ」と頼んだ言葉そのままに、準決勝まで4試合34得点と打線が爆発し、決勝に勝ち進んだ。準々決勝の名城大戦では大会タイ記録となる17得点を挙げている。
その、名城大戦では印象的なシーンもあった。
最終回、相手中堅手の後逸によるランニング満塁本塁打に歓喜する福井工大ナインだったが、下野監督は選手たちに素早くベンチへ戻るように指示。相手のミスであることに加え、「新型コロナ対策の大会規定もいろいろとある中で過度に盛り上がるべきではないですから」と選手たちに冷静さを求めたのだ。
下野監督がこれまでどんなことを大切にしてきたかが凝縮されている場面だった。
慶應大との決勝は完敗
決勝戦では連戦の疲れや慶應義塾大の圧倒的なパワーの前に2対13と力尽きた。下野監督は「勝ちに行きましたが、全投手が打たれ、完膚なきまでに叩きのめされました」と悔しさを滲ませたが、「力不足を痛感したので明日から精進したいです」と前を向いた。
今春で現役を引退する多くの4年生に対しては「このステージまで連れて来てくれたことに感謝していますし、ベンチで最後まで声を枯らしてくれました」と労った。