月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
契約解除の清田育宏に朝乃山の“夜遊び”…一緒にいた記者に書いて欲しい「下世話な話題」に隠れている“大事なもの”とは?
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/06/03 11:00
昨年末の契約更改で清田はチーム初の保留となった。思えばこれが波乱の幕開きだったのかも…
でも支払いはほぼ朝乃山というのが気になる。おすもうさんて「ごっちゃんです」で済んでしまうイメージがあった。そのぶん、強い自分を連れまわさせてあげる気分の良さをタニマチらに与えているのだと。でもタニマチと記者の飲みは違うのだろうか。
そのへんのことを相撲取材経験のある人に聞いてみた。すると、
《確かに力士はタニマチや支援者から「ごっちゃん」になるのが普通ですね。本当に太っ腹なタニマチはメシを食わせてポンと100万円ぐらいの小遣いを渡します(最近は少ないかも) 。ところが記者との関係では逆転しますね。彼らは記者の収入を知っていますし、記者からご馳走になったら「しょっぱいお相撲さん」と思われるから嫌でしょう。》
記者の側も「ごっちゃん」になりっぱなしではまずいので、部屋の付け人や若い衆に別の機会に御馳走するという。ただ今回の件は「コロナ禍の中ではまったく言い訳できないでしょう」。
下世話な話題に思う記者のあり方
こうしてみると朝乃山に同行していたスポニチ記者の責任の大きさも浮かぶ。
力士に食い込むのは必要なことだろう。記者は「やり手」だったのかもしれない。私はこの件で黒川弘務・前東京高検検事長が新聞記者らと賭けマージャンをしていた問題を思い出した。
記者が取材相手に食い込むのはいいとして「読者」の我々はその成果を見たいのだ。そこまでして得た有意義な情報とはなんだったのか。食い込んだだけの記事が書けたのかどうか。
賭けマージャン問題ではそれが無かった。騒動後に記者らが「なぜマージャンまでやったのか」を書いたら読みたかったし、それは貴重なメディア論にもなったであろう。しかし新聞社は書かせなかった。それなら食い込んでいた意味がない。ただズブズブだっただけ。読者側から見ればそう思う。
だから今回の件はスポニチ記者に振り返り記事を書いてほしい。力士に食い込んだ結果どんな会心の記事が過去に書けたのか。距離が近くなることでのメリット・デメリットとは何か。「取材」とは何か。これは嫌味や皮肉で言っているのではない。スポーツ紙好きとして知りたいのだ。そこからまた議論が活発になればいい。
下世話な話題には、大事なものが隠れている。ぜひ「記者論」を書いてほしい。
以上、5月のスポーツ新聞時評でした。