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福岡堅樹がトライを量産できた理由…スピードスターに勝つための「外」の習得と、勇敢で巧みな時間稼ぎ【高1福岡の衝撃】
posted2021/05/31 17:02
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph by
Takao Fujita
格別なスピードはタックルのみならず感傷も無力化する。ついでに感心ってやつも近づけない。福岡堅樹は最後の最後まで、ただただ、アスリートである。
ラグビーのトップリーグのファイナル。日本選手権決勝も兼ねたサントリーサンゴリアス戦をもって現役を退いた。パナソニックワイルドナイツと日本代表の際立つ背番号11は、微風がこちらからあちらへ届くみたいに、なんというのか自然界のありきたりな出来事のように左タッチライン際を駆け抜けた。トライ。いつか目にした、いや、ほとんど常なる場面が、おしまいの試合にまた繰り返された。
これで引退。順天堂大学医学部入学を果たした文武兼備。そんな「普通でないこと」を「いつものトライ」が押し返す。それが心地よかった。
前半30分。福岡堅樹が、サントリーとニュージーランド国民の誇る10番、ボーデン・バレットをかわしてフィニッシュ。31ー26の勝利後の会見で本人は述べた。
「スピードに乗ったままボールを受けることができた」
なんたる簡潔。そうなればトライなのである。
「僕に似た選手はあまりいません」
ワールドカップ日本大会のあとのインタビューで福岡その人が言い切るのを聞いた。
「僕は基本は(抜くのは)外。一発でトライにつながるところはよさなのかなと。海外でも外にいく選手は意外に少ない。僕に似た選手はあまりいません」
たとえば南アフリカ代表のスピードスター、チェスリン・コルビも外にはあまり勝負しない。ちなみに福岡の解説はこうだった。
「コルビ選手は外に抜くよりも内のほうが得意なんです。(ディフェンスの)釣り出し方に違いがある。外にいくぞと見せて、相手が警戒して一歩スピードを上げた瞬間に内に切る」
実はスピードに恵まれたランナーは外の防御に「穴」がある。脚が速いので外なら追いつける。むしろ内にかわされたくないと神経をとがらす。そうした生理をよく知るケンキ・フクオカは強豪国のエース級をよく外に抜き去った。