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「おまえの代わりなんていっぱいいる」顧問の暴言罵倒が子供を死なす…現代の体罰は“殴る・蹴る”だけじゃない
text by
中小路徹Nakakoji Toru
photograph byGetty Images
posted2021/05/31 06:00
スポーツ界で問題となってきた暴力的指導。その暴力が変異した形で、根強くはびこっている
部の体制については、「指導を顧問一人が担っている現状」を問題点として挙げた。練習の様子が他者の目に触れる機会が少なく、不適切な指導があっても、それを把握できない密室の状態だ。
スポーツの強豪校では、「顧問に任せておけばいい」「結果を出しているので口出しできない」といった空気がある。この状態は、指導の仕方へのチェック機能が働かないリスクを招いてしまう。
また、報告書がいわゆるスポーツ推薦の在り方について言及していることにも注目したい。
この高校では、部活動特別推薦の出願時には、「部活動継続確約書」の提出が求められていた。実際には、部活動をやめても本人は退学にならないが、部に割り当てられている推薦枠を失わせるペナルティーが科されていたという。キャプテンに「やめる」という選択肢はなく、さらに追い詰められたと考えられる。
このケースでは、顧問は手も足も出していない。しかし、反抗できない生徒を精神的に追い詰めた言動が「暴力」であることが、理解されていなかったと考えていいだろう。
実は、同じことが3年前にも起きている。
バレーボール部員の死「おまえの代わりなんていっぱいいる」
岩手県立高3年のバレーボール部員だった新谷翼さんが2018年7月、自宅で自死した。
翼さんは身長が197センチあり、中高時代とも全国選抜チームの合宿に参加した期待の星だったが、自筆の遺書には、「バレーボールが一番の苦痛」「ミスをしたら一番怒られ、必要ないと、使えないと言われた」という趣旨のことが記されていた。
遺族が詳しい調査を求め、岩手県教育委員会は第三者委員会を設置した。その調査報告書が昨年7月、発表された。
報告書では、部の顧問の叱責や暴言が自死につながる絶望感の一因になったと結論づけた。
「おまえの代わりなんていっぱいいる」
「背は一番でかいのに、プレーは一番下手だな」
「そんなんだから、幼稚園児だ」
顧問からそんな人格否定的な暴言を常習的に投げつけられ、公式戦の敗因を名指しで押しつけられたこともあった。自傷行為を疑わせる傷が、部員たちに目撃されていた。
この報告書では、言葉も暴力に含まれるというガイドラインの内容を、顧問が理解していないことも指摘していた。
遺族「何が暴力に当たるのか、という学びが急務」
「翼の時と同じことがまた起こっている。対策をとらず、放置しているのと一緒。沖縄のご遺族の心情が察せられます」
こう話すのは、翼さんの父親の新谷聡さんだ。