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【全米プロ】松山英樹が挑む名匠ピート・ダイの最高傑作…今季メジャー2戦目、優勝候補はパパとなって戻ってきたマキロイ?
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2021/05/19 17:01
2012年の全米プロを制した当時23歳のマキロイ。重圧に苦しんでいた青年を救ったのはキアワの景色だった
マキロイ自身、優勝して批判を払拭したい、鼻を明かしてやりたいという気持ちが日々強まる一方で、「勝たなければ」と前のめりになる心の暴走をなんとかして抑えなければと必死になり、必死になればなるほど苦しくなっていた。
しかし、キアワ入りしたマキロイは、ちょっとしたことがきっかけで、その苦しみから「一気に解放された」と明かした。
大会ウィークの月曜日。マキロイはキアワのロッカールームにまず足を運び、窓辺に位置していた自分のロッカーを見て、こう思ったそうだ。
「その窓からは練習グリーンと海が一望できた。その美しい眺めを見たとき、何か不思議な気持ちになったから父とキャディに言ったんだ。『何かいいことが起こりそうな気がする』ってね」
何かいいこと、不思議なことが起こりそうだと予感できたことで、乱れていた感情がうまくコントロールできるようになったマキロイは、すっかり落ち着きを取り戻し、その落ち着きは、難コースのオーシャンコースを攻略するための見事なコース・マネジメントを可能にしてくれた。
愛妻の助言で生まれた最高傑作
前述の通り、オーシャンコースの基本形を描いたのは名匠ピート・ダイだが、彼はバンカーや沼を随所に配した斬新なデザインを考案した上で、愛妻アリスに助言を求めた。そしてアリスの柔軟な思考を付加したおかげで、どこか無機質だった設計図の上に穏やかさや優しさ、気まぐれな要素もプラスされ、「ダイの最高傑作」が生まれたと言われている。
海に沿ったホールの数は北半球で最大と言われているが、大西洋沿いは“天然リンクス”ながら、数多くの湿原やマウンドは人工的に造られたものだそうで、つまり半分天然、半分人工の“半人造リンクス”だ。
しかし、時々刻々と変化する天候や風は、人間のコントロールをはるかに超えたマザーネイチャーだ。大自然の目まぐるしい変化を的確に見抜き、その瞬間その瞬間のオーシャンコースの攻め方を、誰よりも冷静に見極めたのがマキロイだった。
無風に近い晴天だった初日はピンを攻めに攻め、強風だった2日目は「風に乗せて球を運んでもらった」。前日より風が弱まった3日目は「前半はピンを狙い、後半はピンを狙わずにグリーンに乗せる」ことを心掛けた。
そして最終日。
「風に立ち向かうのではなく、風の動きに即して、一緒に歩もう」
そんな姿勢になれたのは、窓外の景色に癒された彼の心がすっかり穏やかになっていたからで、そんな姿勢を通したら、2位に8打差の圧勝がもたらされた。