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藤井聡太二冠“日付越え逆転勝利”で勝率.976 「アリ地獄」的な順位戦、谷川浩司九段が「イチローvs大谷」にたとえたワケ
posted2021/05/14 11:02
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
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Japan Shogi Association
<名言1>
クラスが落ちても全然楽にならず、落ちれば落ちるほど、むしろ食われてしまいかねない。それは「アリ地獄」のような恐怖感があります。
(中村太地/NumberWeb 2021年3月15日配信)
◇解説◇
2021年5月13日、第80期順位戦B級1組1回戦が行われ、藤井聡太王位・棋聖(以下二冠)は三浦弘行九段と対戦した。横歩取りの戦型で進んだ本局は、中盤から終盤にかけては「ABEMA」の評価値で“三浦九段やや優勢”の状況が続いた。
しかし藤井二冠が81手目の「8五飛」と指して以降は混沌とした展開に。最後は109手で三浦九段が投了した。藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段は「ABEMA」の解説を務めたが、前述の「8五飛」について「こんな指し方があるんだという感じですね」と感嘆の声を挙げていた。
この勝利で藤井二冠は順位戦での連勝記録を単独2位となる22連勝に伸ばし、通算成績も40勝1敗、勝率.976となった。
対局終了は日付を越えた14日午前0時26分。午前10時から対局が始まっていたことを踏まえると――藤井二冠と三浦九段は半日以上もの間、頭脳をフル回転していたことになる。これほどまでに厳しい戦いが順位戦では繰り広げられている。
苦しい内容でも勝ちを拾う泥臭さが必要
順位戦の厳しさについて象徴する言葉を口にしていたのが、中村七段だ。
王座1期とタイトル経験を持つ彼でも、順位戦では“頂上”のA級から数えると3番目のクラス、B級2組に在籍している。そのB級2組も第79期は竜王3期の藤井猛九段、NHK杯優勝経験のある鈴木大介九段と村山慈明七段、そして藤井二冠らが所属するなど、熾烈な争いだった。
「1年間通して、極端な調子の良し悪しがあっては戦い抜くことができません。安定した実力、高いモチベーションの維持が求められる。総合力が求められる棋戦です。(中略)本調子ではない時期もやっぱり出てくるもの。やはり将棋も、苦しい内容でも勝ちを拾う泥臭さが必要になってくると思います」
前期順位戦の最終局で藤井二冠と戦った中村七段は、このように順位戦に臨む姿勢を語っていた。常時安定した強さが必要というのは、野球で言えばペナントレースに共通するイメージだろう。
その一方で順位戦には「降級」という、サッカーにおける降格と同じ制度がある。芳しい成績を残せず下のクラスに落ちたとして、普通なら“少し戦いやすくなるのでは”と考えてしまうが、そうではないと中村七段は言い切る。