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「棋士に学歴は必要ない」vs「先生と同じでは、先生止まり」… 中学生の米長邦雄が師匠と対立、鉄拳を浴びた日
 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKyodo News

posted2021/05/04 11:01

「棋士に学歴は必要ない」vs「先生と同じでは、先生止まり」… 中学生の米長邦雄が師匠と対立、鉄拳を浴びた日<Number Web> photograph by Kyodo News

昭和45年ごろの米長邦雄永世棋聖

師匠の「棋士に学歴は必要ない」に反発した米長

 一九五九(昭和三十四)年一月。米長は奨励会に六級で入会してから、一年九ヵ月で一級に昇級した。中学卒業を控えたその頃、師匠と進路について話し合っていた。

 米長は高校への進学を希望していた。学業のほかにさまざまなことを経験でき、同世代の男女と知り合える。高校生活を通して、人生のバランスが取れると考えた。

 しかし、佐瀬は高校進学に猛反対し、次のように自説を主張した。

「棋士にとって、学歴はまったく必要ない。実際に、小学校しか出ていない大棋士もいる。高校に通う時間を将棋の研究に充てれば、必ず強くなって一流棋士になれる。朝から夕方まで、棋譜を並べる、詰将棋を解くなど、学校の授業のように時間割を作ってやる。俺も若い頃は、六時間以上は研究したり強い相手と指したものだ」

 すると米長は、「私は、一日に集中して三時間、将棋の研究をすれば十分だと思っています。三時間以上すると、頭がボーっとなってしまいます。六時間も続けてできるような、生ぬるい勉強法はやったことがないのです。だいたい先生と同じような勉強法では、先生止まりの将棋で終わってしまいます」と言い返したのだ。

鉄拳を飛ばし「破門するぞ」と

 佐瀬は米長の思い上がった態度に激怒して鉄拳を飛ばし、「破門するぞ」と言った。将棋の世界で師匠の言葉は絶対で、通常は弟子の方が折れるものである。しかし、何と米長は「もし私のような男を破門にすれば、この世界で恥をかくのは先生の方ですよ」と反論したのだ。佐瀬はそう言われると、二の句がなかった。

 鬼才と呼ばれた大棋士の升田九段が米長の才能を早くから高く評価していて、「自分の弟子に譲ってくれ」と佐瀬に申し入れたことがあったほどだ。

 米長は後年に自叙伝で、佐瀬との激しいやり取りについて、「中学生のとき、師匠にあれほど堂々と言える自分も凄いが、高校進学に反対する師匠の姿勢も鬼気迫るものがあった。これは絶対に高校に行かねばならぬと決意を固めた」と書いた。

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米長邦雄

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