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白血病から2年で復活… 池江璃花子の“天性の才能”と“北島康介との共通点”とは【元五輪スイマー伊藤華英が解説】
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byKyodo News
posted2021/04/03 06:01
ジャパンオープンでの池江璃花子。日本選手権でどのような泳ぎを見せてくれるか、楽しみでしかない
“3週間のブランク”でも元に戻るのが大変なのに
学校の授業など、プールで泳いだ時を思い出してもらいたいのですが、意外と水って"重い"んですよね。普段から練習をしていて良いコンディションでいれば、泳いでいるときに「水をキャッチして、かけているな」という感覚がしっかりとあるんです。
ただ一定の期間が空いて久々にプールに入って泳ぐと、何もつかんでないというか、「水を触っているんだろうか?」と思うほどになります。まずはこの感覚を取り戻さなければならないのです。
泳ぎの感覚とともに、筋力も落ちてしまいます。例えばオフ明けで体幹トレーニングを1時間やるだけでも筋肉痛になりますし、ベースの体力を取り戻すためにはだいたい1カ月くらいかかるかな、という記憶があります。また左膝をケガした際には筋力が落ちて、左右の足周りの筋肉が5cmほど違ったこともありました。
それを踏まえれば、池江選手の復帰の道のりがどれだけ異例であるかが、分かってもらえるでしょう。
筋力がゼロに近い状態になったと推測される中で
池江選手はケガや休暇でブランクが空いたのではなく、白血病の治療でまったくトレーニングができなかった。例えば膝のケガであれば上半身は動かせます。ただ池江選手の場合は内臓も含めて、身体全体が衰えた状態になっていたのではないかと推測されますし、元のピークから考えれば、その筋力はほとんどゼロに近いと思います。
そこから競技復帰してこれまでの成績を残した秘訣は……きっと「これまでの感覚を一度、自分の中で忘れた」のではないかなと思っています。
彼女は"切り替える強さ"というか、良かった頃にとらわれない考え方ができる。スランプに陥る選手は「いい時の自分」を追いかけがちなのですが、継続して飛びぬけた結果を残せる選手は、心身ともにアップデートできる能力があります。
私の現役時代で言えば……北島康介さんがそうでした。