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“犬猿の仲”の両国間で揺れ、ドイツ代表を選択した18歳ムシアラ… 多重国籍選手の葛藤と決断とは
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/03/25 17:00
ドイツとイングランド、それぞれにルーツをもつムシアラだが、先月に入りドイツ代表でのプレーを決断した。今回は17歳が抱えた葛藤にフォーカスし、変容しつつある代表チームについて考える
ドイツ育ちの選手が他国を選ぶケースも
ドイツで生まれ、ドイツで育ち、U-21まで世代別代表として活躍していた選手が、他国の代表を選ぶことも少なくない。
例えば、2008年U-19ドイツ代表の欧州選手権優勝メンバー、エメル・トプラク(現ブレーメン)はトルコ代表を選んだ。つい最近では、ヘルタのパルコ・ダルダイがハンガリーU-21代表でプレーすることを選んだ。
彼らは、どのような理由から代表チームを選んでいるのだろう。
生まれ育った環境、友人関係、親からの影響、将来的なビジョン、チームメイト、自分がプレーするポジション、プレーできる可能性……。様々な要素が考えられる。
とはいえ、本来ルーツというものは1つに絞らなければならないものではないはずだ。どちらかではない。どちらも誇りで、どちらもが自分の大事な一部なのだから。
それでも彼らは決断を下す。どこまでも自分自身を見つめ、問いかけ、今だけではなく過去を振り返り、未来と会話して、時に痛みを伴う選択をする。
ドイツだけでなく、世界中のあらゆる国々で様々なルーツをもった人が暮らしている。日本生まれ、日本育ちの選手が他国の代表選手になる。その可能性も十分ある。
一国の代表として戦うことの誇り、伝統、美徳を継承していくことは大切だ。しかし、そうした要素も時代とともにバージョンアップしていかなければならない。様々なものの前提条件が変われば、価値観の解釈だって、それぞれの関係性だって変わってくる。
ムシアラが4歳の頃に最初にプレーしたTSVレーネルツの監督ブランコ・ミレンコフスキさんが、「彼の18歳の誕生日には何を祝いますか?」と聞かれて、笑顔で次のように答えていた。
「サッカーで特に大事なのは健康だよ。それから3月の代表戦が遅ればせながらの誕生日プレゼントとなることを祈っているよ。特にスリリングなのは北マケドニアとの試合だね。僕の故郷だからね。もしジャマルがプレーすることになったら、どっちを応援したらいいかわからないよ」
素敵な話だと思った。
どの国の代表でプレーするかを選んでも、人としての大切さは変わらない。これからの時代に生きる者として、多様性に満ちたグローバル社会において、様々なルーツを持ったアスリートの決断を、しっかりと受け止めていきたい。