欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
“犬猿の仲”の両国間で揺れ、ドイツ代表を選択した18歳ムシアラ… 多重国籍選手の葛藤と決断とは
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/03/25 17:00
ドイツとイングランド、それぞれにルーツをもつムシアラだが、先月に入りドイツ代表でのプレーを決断した。今回は17歳が抱えた葛藤にフォーカスし、変容しつつある代表チームについて考える
17歳の青年が抱えた葛藤
「僕の胸には2つのハートがある。1つはイングランドで、もう1つはドイツだ。どちらのハートも、これからもずっと動き続けていくんだ」
まさに苦渋の選択。ムシアラ自身は、そう語っていた。
生まれた国、育った国。両親それぞれのルーツがある国、それぞれつながりがある国。どちらも母国なのだ。どちらか選ぶのがどれほど困難かは、僕らでも想像できる。さらに周囲からのプレッシャー、期待、そこからくるストレスは計り知れない。
周囲の大人はサポートに努めた。
フリックは「短い間に彼の人生において様々な新しいことが起きた。新契約もそうで、ドイツかイングランド、どちらの代表でプレーするかも決めなければならなかった。だが、忘れてはいけない。彼はまだ17歳なんだ」と周囲への理解を求めた。
また、バイエルンのチームメイトであるレオン・ゴレツカも「これは彼が1人で導き出さなければならない決断だ。周囲は関係ない」と話していた。
「欧州選手権やW杯で対戦したい」
そして、18歳の誕生日を迎える2日前。2月24日にムシアラはドイツ代表でプレーすると決断した。
最終的には自分の直感を信じ、「この決断は100%正しかったと感じている」と明かしている。イングランドへは自分で直接連絡したという。
「(FAでアシスタント・テクニカル・ディレクターを務める)ジョン・マクダーモットとサウスゲートには決断した理由を説明したかった。がっかりしてはいたけど、僕の決断を受け入れて、将来を祝福してくれたよ。彼らのポジティブなリアクションが嬉しかったし、ホンモノのスポーツマンだと思った。
ユーデ(ベリンガム)も僕の決断を理解してくれると思うし、これからだって友達だ。欧州選手権やW杯で彼と対戦できたら、すごく嬉しいね」
多様化が進む代表チーム
このように多重国籍の選手が増えれば増えるほど、代表チームとは、と考えさせられる。代表チームの立ち位置は、ここ10~20年で変わってきている。
その国で生まれ、その国で育ち、その国の人間として誇りをもって代表でプレーする。それが唯一のルートではなくなってきた。
どの国の代表チームを見ても多様化、多民族化、グローバル化が進んでいる。