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“犬猿の仲”の両国間で揺れ、ドイツ代表を選択した18歳ムシアラ… 多重国籍選手の葛藤と決断とは
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/03/25 17:00
ドイツとイングランド、それぞれにルーツをもつムシアラだが、先月に入りドイツ代表でのプレーを決断した。今回は17歳が抱えた葛藤にフォーカスし、変容しつつある代表チームについて考える
バイエルン移籍で変わった潮目
バイエルン加入した当初、ムシアラはU-17チームでプレーしていたが、すぐにU-19、U-23へと昇格。そして昨シーズン、3部リーグで才能の片鱗を見せていた17歳を、フリック監督がトップチームに抜擢した。
ムシアラはその期待に応え、26試合を消化したブンデスリーガで19試合、CLで5試合に出場。ここまで4ゴールを挙げている。
CL決勝トーナメント1回戦、ラツィオとのファーストレグではスタメン出場し、チーム2点目となるゴールをマーク。これはドイツのチーム所属のCL最年少ゴールだ。
熱心な説得に動いた両協会
バイエルンで活躍を重ねるにつれ、「ムシアラをドイツ代表に」という声が膨れ上がり、「どちらの代表でプレーするのか」というニュースも増えてきた。ドイツとイングランドが“犬猿の仲”というのも、この構図に拍車をかけていた節がある。
いずれにしても、両国のサッカー協会はムシアラを説得するため精力的に動いた。
代表チームで長くアシスタントコーチを務めていたフリックと常に連絡を取っているレーブは、「ものすごいポテンシャルを持つ」と認める逸材を自チームに呼ぶため、マネージャーのオリバー・ビアホフとともに、1月下旬にバイエルン対ホッフェンハイムの試合を視察した。
「ドイツ代表に招集したいという思いを受け止めてもらえたと思う。ドイツに彼ほどのレベルを持っているタレントはそうはいない。決断は彼がする」
レーブは試合後に直接コンタクトを取り、自分たちのプランと本気度を伝えた。
一方、イングランド代表のガレス・サウスゲート監督も頻繁にコンタクトを取り、代表チームでの将来像を丁寧かつ情熱的に伝えてきた。
現在ドルトムントでプレーする17歳のジュード・ベリンガムとは親友関係にあるため、彼を通して「一緒に(イングランド代表で)プレーしよう」と何度も誘っていたという。
ムシアラがどちらの代表を選ぶのか――。“Xデー”は3月の代表戦とみられていた。