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“犬猿の仲”の両国間で揺れ、ドイツ代表を選択した18歳ムシアラ… 多重国籍選手の葛藤と決断とは
posted2021/03/25 17:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
3月19日、ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督は2022年W杯欧州予選の3試合(25日アイスランド戦、28日ルーマニア戦、31日北マケドニア戦)に向けたメンバーを発表した。
今回の3連戦は6月に開催予定の欧州選手権前の最終選考とも考えられているが、指揮官は17歳のフロリアン・ビルツ(レバークーゼン)と18歳のジャマル・ムシアラ(バイエルン)を初招集している。
ビルツの招集も驚きだが、ムシアラはここ数カ月、ドイツメディアが大きく注目してきた話題の選手だ。
バイエルンのハンス・ディーター・フリック監督が「ボールを失わない。そして、どのスペースで待つべきかという優れた感覚を持っている」と評価する逸材という事実に加え、イングランド国籍も持つムシアラは、イングランド代表を選ぶという選択肢もあったからだ。
ドイツ生まれ、イングランド育ち
18歳の俊英は、なぜドイツ代表を選んだのだろう?
ムシアラはドイツ・シュツットガルト生まれ。7歳の頃に母親がサウサンプトン大学で社会学を学ぶために引っ越すことになり、それ以降はイングランドで育っている。
すぐに稀代のタレントとして評判を呼び、8歳でチェルシーにスカウトされた。そのまま順調に成長し、15歳になる頃にはU-18チームでプレーしていたという。
ムシアラの母はドイツ人。父はイングランドとナイジェリアのハーフ。FIFA規約によると、国籍を複数持つ選手はA代表として公式戦に出場するまで代表の変更が許されている。世代別代表、またA代表の親善試合においても、どちらの国でもプレーすることができるというわけだ。
つまり、ムシアラにはドイツ、イングランド、そしてナイジェリアでプレーする権利があった。とはいえ、それまでの生活空間との結びつきからドイツとイングランド、いずれかでプレーするだろうと見られていた。
スリーライオンズで過ごした育成年代
ドイツとイングランドのサッカー協会(DFBとFA)は、かなり早い段階からムシアラの才能を認め、代表候補にリストアップしていた。
ただ、ムシアラはこれまでU-16ドイツ代表で2試合プレーした以外、育成年代ではイングランド代表を選ぶことが多かった。
13歳の頃にイングランドU-15代表に選出されたのを皮切りに、U-16、U-17、U-21といったイングランドの各世代別代表において、計23試合出場10得点という結果を残している。
そんなムシアラだが、2019年にバイエルンへ移籍したことで潮目が変わった。