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20年前、現役DFクロップを突然監督に…名将を生み出したマインツが貫くブレない哲学とは【トゥヘルも輩出】 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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posted2021/03/07 11:00

20年前、現役DFクロップを突然監督に…名将を生み出したマインツが貫くブレない哲学とは【トゥヘルも輩出】<Number Web> photograph by Getty Images

名将ユルゲン・クロップはなぜ生まれたか。そのルーツは“監督が育つ”土壌が浸透するマインツにある

監督が育つ。マインツに浸透する土壌

 クロップ、トゥヘル、さらにはマルティン・シュミット、そしてサンドロ・シュバルツと、指導者として無名の存在がブンデスリーガ監督として抜擢されている背景には、マインツが大事にしている家族的な雰囲気と継続性がある点も見逃せない。

 ハイデルもシュトルツも、常にそこを強調している。

「我々が確信したら、その才能を発揮し、成長するための機会を十分に与える。もちろん勇気は必要だ。ただし、このクラブでは3連敗を理由に解任されたりはしない。ユルゲン(クロップ)もトーマス(トゥヘル)も9試合連続で勝てない時期があったが、それでも我々は1秒たりとも解任を考えたことがない。マインツにとって継続性というのはクラブ全体における骨子なんだ」(ハイデル)

「我々はチャンスを切り拓いていくクラブと言えるかもしれないね。巨大な資金力を持つクラブに、勇敢に立ち向かっていくクラブだ。成長に貪欲で、成功を渇望する若い人材がその才能を開花させる可能性をここで持つ。クロップやトゥヘルもそうだ」(シュトルツ)

 そう、マインツでは監督が成長することが許され、そのための時間が十分に与えられる。そして、どんな指導者がクラブにとって重要になるかの基準が明確にある。

「監督にとって最も大事な要素は、自身の持つ信憑性を守ることだと思う。それはつまり、自分の正しさを証明するために自分らしくい続けるということだ。クロップもトゥヘルもそうだった。そうした人物が確かな専門知識を学び、チームビルディングを身につけ、的確に批判できるようになったとき、ホンモノの優れた指導者になるのだろう。そのうえでカリスマ性を持っていれば、トップレベルの指導者にもなれる」(ハイデル)

 どの監督もイメージ通りに成長していくなんてことはない。そこにはチャレンジと失敗の繰り返しがある。だが、それすらも恐れはしない。

 フランクとクロップが見せてくれた、理想の指導者像。選手時代のきらびやかな名声に惑わされず、虚心坦懐に優れた指導者のタレントを見つけ出したハイデルとシュトルツの慧眼。そしてブレることなく、ともに成長しようと努めるマインツというクラブの土壌において、稀代の名将たちは産声を上げていったのだ。

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