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「プレータイムが長い=偉い、ではない」エースの大ケガにも慌てない伊佐HCが語る、SR渋谷の強みとは
text by
青木美帆Miho Awokie
photograph byB.LEAGUE
posted2021/02/23 11:00
現在故障者リスト入りしているライアン・ケリー。怪我を負った1月24日時点で1試合平均20.6点をあげチームの要となっていた
SR渋谷の前身は日立のバスケットボール部。社員選手たちは社業を優先し、あくまで部活動としてバスケットに取り組んでいた。
勝敗やチケット収入が報酬に影響することはなく、会社の外にファンを増やす必要もない。実業団選手として、ある意味気ままにプレーしていればよかった。
しかしBリーグが開幕し、プロ化をしても、チームの雰囲気は実業団時代からなかなか変わらなかった。
この状況を憂えたゼネラルマネージャーの大江田孝幸は、琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチを契約満了となった伊佐に「クラブの文化づくりを手伝ってほしい」とオファーを出し、伊佐もこの「文化づくり」というミッションに惹かれて、SR渋谷に加入した。Bリーグ2年目、2017年のことだった。
「僕自身がプロクラブから来たこともあって、最初は『やっぱり元企業チームだな』っていう感じはありましたね」。伊佐は加入当初をそう振り返る。
社業優先から戦う集団へ
まず面食らったのが、試合後のロッカールーム。敗戦の直後にも関わらず、選手たちは普段と変わらぬ明るい表情で談笑に興じていたという。
「本当にびっくりしましたしショックでした。キングスは負けたら絶対笑えないですから。一緒にキングスから来た山内(盛久)と思わず顔を見合わせました(笑)」
チーム練習後に自主練習をする習慣もほとんどなかった。「もともと実力のある選手たちですし、企業チーム時代は練習しなくても通用していたんだと思います」。試合前のロッカールームの雰囲気も非常にゆるんだものだった。
2018-19シーズン途中、アシスタントコーチからHCに昇格すると、伊佐はさっそく改革に乗り出した。試合への集中をうながすため、ロッカールーム内でのスマホ使用を禁止に。敗戦後のロッカールームの雰囲気についても「暗くなれとは言わないけれど、僕らのこの状況で明るくなることはないんじゃないか?」と諭した。
そうした細かなことを積み重ねていくうちに、練習の雰囲気がよくなり、徐々に「戦う集団」に変化していった。
HC続投となった翌シーズンは、自身が理想とする「激しいディフェンスから走れるチーム」というスタイルにフィットする選手を獲得(候補リストの一番手は、現在SR渋谷の象徴とも言えるディフェンスマン・関野剛平だった)。
12人のロスター全員を頻繁に出し入れし、最長で5分程度しか持続できないほど激しいディフェンスを40分間維持し続け、そこから日替わりヒーローが次々に現れた。