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「プレータイムが長い=偉い、ではない」エースの大ケガにも慌てない伊佐HCが語る、SR渋谷の強みとは
text by
青木美帆Miho Awokie
photograph byB.LEAGUE
posted2021/02/23 11:00
現在故障者リスト入りしているライアン・ケリー。怪我を負った1月24日時点で1試合平均20.6点をあげチームの要となっていた
ロスター全員を誰一人欠けさせることなく、それぞれにチームに貢献させる采配。筆者はそれが伊佐の情の深さに起因するものと推測したが、伊佐の回答は「40分間あのディフェンスをするには全員必要だから」という至極現実的なものだった。
しかし、その後もインタビューを続けると、伊佐のいう「必要」が、絶対的な選手への愛情と信頼に根付いたものだと感じさせる言葉に出会った。以下がそれである。
「綺麗ごとですけど、やっぱりみんなで戦って、みんなで勝って、みんなで負けたいんですよね。『30分出たから偉い』とか、『1分しか出ていないからダメ』という考え方は僕の中にはありません。みんなでつないで、つないで、全員で40分間のゲームを作る。そこで毎試合ヒーローが替わってくれれば一番いい。それは常々伝えています」
伊佐は自分が獲得した選手たちに絶対の自信を持っているし、心の底から全員の力が必要だと思っている。そのことを理解させるために、プレータイムが伸びなかった選手と向き合い、時間を費やして選手への思いを伝える(当インタビューも、伊佐とある選手の突発的なミーティングによって数十分遅れた)。
だから選手たちは短いプレータイムであろうと自信を持ってコートに立ち、試合に貢献しようとする。
みんなで補っていけばいい
高校2年生の時に伊佐と出会い、プロ入り、SR渋谷入りへのきっかけを与えられた山内は言う。
「ムーさん(伊佐の愛称)は一言で言うと、人のいいおじさんです(笑)。十何年付き合ってきましたけれど、一度も人の悪口を聞いたことがないし、他の人からもムーさんの悪口を聞いたことがありません。
自分がプロ選手としてハードワークしている理由の1つは、プロに進むきっかけを作ってくれたムーさんへの恩返しです。ムーさんを優勝HCにしてあげられるようにがんばりたいと思っています」
「ゆいまーる」という言葉がある。伊佐の故郷・沖縄で「共に助け合うこと」を意味する言葉で、チームのスローガン「結(ゆい) -FIGHT AS ONE-」の語源だ。
「うちには30点40点とる選手はいません。全員で、チームで守ってチームで点数をとるという意味合いから、このようなスローガンにしました。人にはそれぞれに強みと弱みがある。みんなで補っていけばいいんじゃないっていうのが僕のバスケット観なんです」
伊佐のHC就任後、SR渋谷は確かなチーム文化を構築しているが、伊佐は「文化というものはたった数年でできるものじゃないと思っている」と冷静だ。伊佐と選手、そしてクラブのスタッフらが育む「結」のマインドは、数十年後のSR渋谷にどのような色を与えているだろうか。