濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“日本一の美女レスラー”から東京女子プロレスの顔に 上福ゆきがリングで掴んだ「六本木ではできない経験」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by東京女子プロレス
posted2021/02/18 11:01
上福ゆきは他の女子レスラーとは一味違ったスタイルでプロレスファンを魅了している
表参道で買い物してる人たちが見たくなるような
結果を出した今も“プロレスの常識”からはつかず離れずのところにいる。ベルトの持ち方にもこだわりがあるそうだ。曰く「腰に巻いて腕組みして、みたいなのはやりたくない」。背中側に提げてみたり、クラッチバッグのように手で持ったりする。「このベルトはフェンディのバッグくらい価値があると思って。もしかしたらもっとかも」。ポーズのお手本はプロレスメディアではなくファッション誌だ。
「アイドルみたいな選手はたくさんいるし、アイドル好きなお客さんもいっぱいいますよね。私はいま会場にいない人たちに知ってほしくて。表参道で買い物してる人たちが“これから東京女子プロレス見に行こう”ってなるといいなって。かわいい子よりポルシェの助手席が似合う女がタイプだっていう人も見たくなる女子プロレスっていうか(笑)」
「時間があんまりないから頑張らないと」
2月11日の後楽園ホール大会では、後輩の舞海魅星を相手に2度目の防衛戦を行なった。柔道経験者でもとからプロレス好き、正統派のエース候補と言ってもいい魅星は、上福とは正反対のタイプだ。
パワーと関節技に苦しむ場面もあった上福だが、終盤一気にたたみかけてベルトを守った。ビッグブーツ(顔面蹴り)にドロップキック、卍固め、そしてフィニッシュのダイビング・フェイマサーまで、どれも長身と手足の長さが際立つ攻撃。それが彼女なりに掴んだ、彼女だけのプロレスだった。
初のシングル王座挑戦に、気合いの表れとして自作の(どこかで見たような)「挑戦権利証」を持ち込んだ魅星に対して、試合後の上福は言った。
「実力は凄いし、有名なプロレスをたくさん見ていて、それをパロって頑張ろうとしてるのかなって。じゃあオリジナリティとは何だろうって。それは魅星ちゃんの実力じゃなくて誰かが作ったものかなって。ゆきが勝てたのは意地っていうかもう死ぬ気で、本気でやったら相手の心がパリーンって割れたのかな」
今月20日で、上福は28歳になる(アントニオ猪木と同じ誕生日だ)。「始めたのも遅かったし、時間があんまりないから頑張らないと」と上福。しかし今の充実ぶりを見る限り、30代には30代の、あるいはその先の、誰にも似ていない“上福ゆきのプロレス”がありそうな気がして、それもまた楽しみなのである。