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石川祐希が語る“伝説の東福岡戦”と“6冠達成”の要因 無観客の春高に挑む高校生へ「全力で楽しんで」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byJun Tsukida/AFLO SPORT
posted2021/01/04 11:03
星城高校時代は1年生の頃からレギュラーとして活躍した石川祐希。当時の経験はバレーボール人生の大きな糧となっている
高校最後の春高バレーでは星城の6冠を阻もうと、エース石川へのマークも一段と厳しくなった。しかし、各校からのプレッシャーをものともしない安定感あるプレーで、着実に得点を積み重ねていった。
「高校時代は他の選手に比べて高さもあって、ブロックの上から打つこともできていたので、安定した高いプレーが出来れば大幅に崩れることはないという自信がありました。どれだけマークされようとも関係なかったですし、あまり気にしていませんでした」
石川には今でも強く印象に残っている試合が2つある。1つは準々決勝で対戦した開智(和歌山)戦だ。
「試合内容までは細かく覚えてないんですが、開智に第1セットを奪われたときに第2セットに入るまでのベンチで“次取られたら負けだな”というような話を選手同士でしていたんです。もちろん勝つために試合をしていたけれど、負ける覚悟があったというか、どんな結果であろうと後悔のないよう準備して春高には臨んでいたので、もし負けていても、自分たちのやるべきことをやり切ったと思えていたんじゃないかと思います」
語り継がれる名勝負・東福岡戦
そしてもう1つが春高バレーの歴史で今も語り継がれる名勝負、準決勝の東福岡戦だ。
試合は最後まで息をのむような展開が続いた。1、2セットと星城が25-18、25-21で連取。このまま星城ペースで試合が進んでいくのかと思われたが、第3セットはセットポイントが行き交う大混戦の展開となった。
序盤から金子聖輝(JTサンダーズ)や谷口渉(FC東京)らを擁する東福岡ペースで、星城は大量リードを許す。しかし、石川のスパイクや武智洸史(JTサンダーズ)や神谷雄飛(ウルフドッグス名古屋)らのブロックなどで星城はじわじわと詰め寄り21-21の同点に。さらにここから一進一退の攻防が続く。リベロの川口太一(ウルフドックス名古屋)がスーパーレシーブでピンチを救えば、「前衛のときは全力でスパイクを打ち抜いた」と石川がブロックの上から打ち抜くスパイクを決める。しかし、相手も一歩も譲らない。
両チームエース同士の打ち合いと白熱のラリー戦。30点を超えるデュースの末に、最後は34-32で星城が勝利した。
「3セット目の最後の方は僕も足がつっていて、体力的にも限界でした。その中で“このセットを取った方が勝つ”という空気すら感じながら、最後まで全力で、みんなでボールを繋ぎきって手に入れた勝利でした。あのまま4、5セット目までもつれていたら危なかったですね」
そこで勝負を分けたものは何だったのだろうか。
「1点取ってやる」「絶対に勝つ」
「やはり最後はメンタルだと思います。たとえば、拮抗した場面で“1点取られたらどうしよう”とか、たとえ一瞬でも、一歩でも引いてしまうと接戦は勝ちきれません。そういった状況では、逆に“1点取ってやる”、“絶対に勝つ”と気持ちを強く持った方が勝つ。その気持ちをコートで表現している方が結果を出すというのは、当時もそうですが、イタリアに来てプレーしていても強く感じる部分ですね。
もちろん、当時も純粋に試合に勝ちたいという思いも強かったですが、高校時代はそれ以上にとにかく“バレーボールを楽しむ”という気持ちがまさっていて、それがすべてだったなと思います。あの時代があったからこそ、今、世界の舞台で一戦一戦を楽しみながら、結果も伴って、少しずつステップアップできているんだと思います」