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小平奈緒、5年ぶりの敗戦の意味「自分が目指してきたのは金メダルではない」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJIJI PRESS
posted2020/12/05 11:00
先月13日、女子500mで2位になった小平奈緒。その眼に映ったものは何だったのか
ソチ五輪前はどうしても勝てなかった
ひとつひとつ丁寧に言葉を選んでいく。
「今は勝ったり負けたりを繰り返す中にいて、ソチ五輪までの間の負けてきた時と、平昌五輪に向けて勝ち続けてこられた時期の両方を経たからこそ、負けを受け入れる力、思ったようなタイムを出せなかった時にしっかりと向き合う力が試されるのではと思っています」
平昌五輪前の無敵だった小平の姿は、平昌五輪で優勝し、涙する李相花(韓国)の肩を抱いてリンクを流したやさしさあふれる姿とともに記憶の中に鮮明にある。けれども、ソチ五輪前までの小平が見せていたのは、平昌前の華々しい記憶とは逆の、苦悩している姿だった。どれだけトレーニングを重ねても、ワールドカップで勝つことができなかった。
だからこそ、今季の小平はこのように言う。
「負けを受け入れられた時に、人間としても一つ殻を破れると思っています。目を背けずにありのままの自分を受け入れ、しっかりと向き合う姿を多くの人に見てもらえたらいい」
「海外選手と競う機会がないのは寂しいけれど」
北京五輪のプレシーズン前という位置づけになる20年のオフ期間は、新型コロナウイルス問題によるさまざまな制限に直面した。4月下旬から約1カ月間は室内施設を使えず、できる範囲のことに最大限の工夫を加えながら体づくりをスタート。5月と6月はトレーニング計画の順番を入れ替えるなど、柔軟な取り組みで一定レベルの土台をつくりあげていった。
7月以降は例年よりも室内リンクでのショートトラック滑走の練習を増やし、夏場の陸上トレーニング期に入ってからはほぼ例年通りの数値まで戻すことに成功した。8、9月には北海道帯広で2度の氷上合宿。例年に比べて中距離の練習を増やしたことでスピード系の動きへの移行が遅れたというが、コロナ禍の世で活動していることの意味に思いを巡らせている分、「余裕を持っているわけではないが、焦りはない」と言っていた。
「ワールドカップ前半戦がキャンセルになり、海外の選手たちと競う機会がなくなってしまったのはすごく寂しいですが、問題を乗り越えようとしている仲間たちが世界中にいるということを想像しながら、私も日本で自分なりに、この状況をしっかりと乗り越えていけたらいいと感じています。今までと同じように目の前にある課題をクリアしていくということと、自分自身を成長させ続けていくということに面白味を見出しながら、自分のスケートを高めていきたいです」