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36歳琴奨菊、最年長関取の引退 9年前、新大関が“憧れの先輩大関”魁皇に語った夢 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byJMPA

posted2020/11/18 17:15

36歳琴奨菊、最年長関取の引退 9年前、新大関が“憧れの先輩大関”魁皇に語った夢<Number Web> photograph by JMPA

11月場所8日目に引退を発表した琴奨菊(写真は2016年1月場所での初優勝時)

琴奨菊 ……ああ、なんだか今日、うれしいッスね。魁皇関とこうして喋れて、また、今の言葉を聞いたら余計に頑張らんと! と思います(笑)。自分、小学校3年で相撲を始めた頃に魁皇関の存在を知って、小学校の文集に将来の夢として、ひらがなで「かいおうぜきみたいになりたい」って書いていたんです。

稀勢の里と豊ノ島がライバル

魁皇 そうだったんだ。話は変わるけど、俺の場合は武双山(現藤島親方)がライバルだった。周囲から見ると、キクも稀勢の里などがいいライバルじゃないかと思うんだよね。稀勢の里だって、キクの昇進が刺激になってこれからまた変わるかもしれないしな。

琴奨菊 自分がそうでした。昨年(2010年)の九州場所で、中学時代からライバルだった豊ノ島が優勝争いしたのに刺激を受けたんです。稀勢の里と豊ノ島をライバルだと自分では思ってるんですが、とにかく土俵に上がったら、勝ち負けを考えなくてすむ相手なんです。

魁皇 相手にも実力があるから認めている、ということなんだ。

琴奨菊 そうなんです。勝っても負けてもいい相手といいますか、「勝ちたい、勝ちたい」じゃないんです。対戦が楽しみで、彼らに勝つとそこから流れがいいほうにノッていくんですね。

魁皇 とにかくこれからも、自分のスタイルを貫き通してやればいいんじゃないかな。愛嬌があって、サインや写真撮影などでも気さくに応じてくれるって、キクは評判いいしな。俺なんか、最後はボロボロだし、横綱になれる実力もなかった。キクはまだまだこれからのお相撲さんだから。自分の力の限り、目一杯、後悔のないようにやってもらえれば。

琴奨菊 自分が魁皇関みたいになりたいと思うのは、相撲はもちろんですけど、やっぱりその人間的な部分なんです。そこを学びたいんです。

魁皇 そうか。それを相撲で見せることが一番だな。

 ふたりの大関は、ともに横綱を目指すも、叶わず。大関在位65場所と、約11年間に及びその地位を守り抜き、陥落を前に潔く引退を決めた魁皇。一方、十両に番付を落としてもなお、「後悔したくない。納得するまで続けたい」と土俵に立ち続けた琴奨菊。ともに”記憶に、記録に残る”大関となった。相撲に対する真摯な姿勢やその人間性は、誰もが賞賛するほど”横綱級”のふたりでもあった。今、当時の対談の終盤、意を決したように琴奨菊が、こう切り出していたのを想い出す。

【次ページ】 「本当ですか、やったー!」

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