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米選手団長「俺が死んだらここに骨を埋めて」 世界が愛した名建築「国立代々木競技場」が世界遺産に?
text by
磯達雄Tatsuo Iso
photograph byNanae Suzuki
posted2020/11/11 06:00
建築界のレガシー「国立代々木競技場」は二度目のオリンピックをむかえる今なお高い評価を得ている
吊り屋根には、施設運営のコストを下げるというメリットもあった。スポーツ施設の屋根の形として、多く用いられるのは、カマボコ形(建築用語では「ボールト」)や、半球形(同じく「ドーム」)だ。それは内部空間が外側に向かって膨らんだ形をしている。それに対して吊り屋根では、内側に向かって萎んだ形をしている。これにより内部空間の容積が小さくなり、空調に必要なエネルギーが少なくて済むのである。
ドラマチックな光の効果、高揚感をかき立てる天井
構造設計者の坪井善勝との共同で、設計の検討を繰り返すなか、大きな設計変更もあった。一つは主ケーブルが1本から2本になったこと。その狭間に内部へ光を取り入れるトップライトを取り付けて、ドラマチックな光の効果をもたらした。もう一つの変更点は、主ケーブルからサブケーブルを垂らして屋根を架ける方式から、主ケーブルからカーブした鉄骨の梁を吊るという方式になったこと。重力によって垂れ下がる自然の曲線から、建築家が引いた曲線へと変えたわけだ。メインとサブがともにケーブルだと、不確定性が多すぎて設計が難しいという面に加え、形状として丹下が思い描く美しい形にならなかったからである。
もちろん鉄骨梁の形も、構造的に十分な合理性を保った範囲で考えられているのだが、合理性だけからは決して出てこないデザインであることも確かだ。これにより、天井はトップライトに向かってより絞り込まれ、見る者の高揚感をかき立てる形状となった。こうして、第一体育館の類のない競技空間はでき上がった。
第一体育館の中心から北側へ線を延ばすと実は…
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一方、第二体育館は、第一体育館の巴型平面を受け継ぎながらも、支柱は2本ではなく1本だ。螺旋状のパイプが下がり、そこから周囲に架け渡された鉄骨の吊り材によって屋根がつくられている。大小の棟が向かい合う様子は、絶妙なコンポジションだ。
2棟の間には、実はもう1棟、内部に管理用の諸室を収めた細長い建物があり、その屋上は「プロムナード」と名付けられた歩行者デッキとなっている。渋谷駅と原宿駅の両方からやってくる大量の観客をさばくために、建築を都市と一体化させたのである。
プロムナードの軸線にはもう一つ、隠された意味がある。これと直交するように、第一体育館の中心から北側へ線を延ばしていくと、明治神宮の本殿に達するのだ(※2)。初めから意図していたわけではなかろうが、広島平和記念公園で敷地外の原爆ドームに向かって軸線を取ったことがある建築家だけに、このことに気がついた途端、配置計画の正しさを確信したにちがいない。