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米選手団長「俺が死んだらここに骨を埋めて」 世界が愛した名建築「国立代々木競技場」が世界遺産に?
text by
磯達雄Tatsuo Iso
photograph byNanae Suzuki
posted2020/11/11 06:00
建築界のレガシー「国立代々木競技場」は二度目のオリンピックをむかえる今なお高い評価を得ている
ボロボロになっても2度目の五輪会場に
東京五輪の終了後、国立代々木競技場では様々なスポーツ大会が開催された。第一体育館は夏季にプール、冬季にアイススケート場として一般公開も行われ、多くの利用者でにぎわった。しかし年月の経過とともに建物は傷んでいき、屋根の錆が目立つようになっていた。1977年には、建物の荒れた状態を見かねた丹下が、維持管理についての要望書を出したほどである。
そうした不遇の時代をくぐり抜けて、2020年の2度目の東京オリンピックでも会場として使われることが決まる。これはやはりオリンピックのレガシーとしての価値に、建築としての評価を重ね合わせての判断だろう。大規模な改修工事も行われた。オリジナル・デザインを尊重しながら、耐震性の向上やバリアフリー対応を図り、この先また何十年と使えるようにしている。
国立代々木競技場が世界遺産に?
そして2016年には「代々木屋内競技場を世界遺産にする会」も発足した。世話人には槇文彦、安藤忠雄、伊東豊雄といった著名な建築家が名を連ねる。そのひとりである隈研吾は「20世紀の建築では他に例がないほど、デザインとエンジニアリングが高いレベルで統合された建物」と評する(※4)。
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世界遺産への道はけわしいが、シドニー・オペラハウスやブラジリアの建築群といった同時代の名建築がすでにリストアップされているので、非現実的というわけではない。
日本の戦後建築では、国立西洋美術館がすでに世界遺産登録を果たしているが、これは世界各国に散らばるル・コルビュジエの建築作品のひとつとして選ばれたもの。単独の建物としては、まだ実現していない。その第1号が生まれるとすれば、国立代々木競技場をおいてほかにないことは、日本建築界の大多数が認めるところ。
世界遺産となってその価値が人類共通のものになるかどうか、その日が早く来ることを期待したい。
※1:講談社編『東京オリンピック 文学者の見た世紀の祭典』講談社文芸文庫、2014年
※2:丹下健三・藤森照信『丹下健三』新建築社、2002年
※3:丹下健三『一本の鉛筆から』日本図書センター、1997年
※4:『日経アーキテクチュア』2016年10月13日号