濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
歌って踊ってBL展開、そして“ガチ”格闘技マッチ...エンタメ・プロレス『まっする』で何が起きた?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byDDT PRO-WRESTLING
posted2020/11/11 11:01
必殺技男子(フィニッシュだんし)の決めポーズ! 笑えるミュージカルから「まさか」の展開に...
趙雲子龍のパフォーマンスには思わず声が出た
普段のプロレスとはまったく違うルールとスタイルの試合で、選手たちは新たな魅力を見せてくれた。DDTのスタッフであり『まっする』出演者の今林久弥は、試合が終わると「恐くて見てられないですよもう。みんなケガはない?」と泣きそうになっていた。
それくらい、いつもとは違う試合だったのだ。だけどそういう闘いをやるのであればいつでもやれる。それもまたプロレスラーとしての矜持だろう。高校時代レスリングの強豪だった彰人が重量級の樋口にあっさり潰されたのは、まさに“強さの現実”だった。コミカルな試合を得意とし、普段は金融会社に勤める趙雲子龍が相手の脚をさばいて鮮やかなパスガードを決めた時には思わず声が出た。
「ここにはここの真剣勝負がある」
もちろん、DDTの選手たちにとって“寝技で極める”ことは自分たちのプロレスのほんの一部。“専業”ではないから、本家・QUINTETに出ている選手ほどの細かい技術は見られなかった。他団体には「これだったら俺のほうが強い」と思っている選手もいるかもしれない。でも実際にやったかやっていないかの違いは大きい。やったのは“文化系プロレス”DDTと系列グループの選手たちで、その舞台は『まっする』だった。いつもヤフーニュースのコメント欄で「どうせ八百長だろ」、「こんな奴らがいるからプロレスがナメられるんだ」と言われている人間たちだ。そんな彼らの“ガチンコ”を見て青木は言った。
「全員の強さと気持ちが伝わりました。みんなちゃんと強い」
それにしても、なぜこんなことをやろうと思ったのか。坂井は大会中に明かした。
「ここにはここの真剣勝負がある」
そのことを若い選手たちに知ってほしかったし、観客にもおそらく業界全体にも知ってほしかった。2.9UINTETの後、リング上ではDJニラvs男色ディーノの試合がボーナストラック的に行なわれた。徹底的にくだらない攻防は作用反作用の法則というのか振り子理論というのか、大会を“いつもの空気感”に戻す役目を担っていた。