ここまでやるから、プロレスは素晴らしい

　エンディング映像では、大会に向けて準備をする選手たちの姿が映し出された。台本の読み合わせ、新曲のレコーディング、ダンスの練習、それに寝技のスパーリング。

『まっする』においては、それらがすべて等価なのである。ダンスの練習も寝技のスパーリングも、同じ“ショーの準備”。セリフをトチらないこと、関節技から逃れること、どちらも必死だ。そして2.9UINTETもニラvsディーノも“対観客の真剣勝負”である。上も下もない。対比することで、それがよく分かった。

　マッスル坂井は自分の興行に演劇の要素を取り入れ、観客を笑わせまくって、その上でいつも「プロレスは素晴らしい」と感じさせてくれる。坂井が持つ「プロレスはここまでやっても大丈夫なんだ」というジャンルへの信頼が揺るぎないから、それができるのだ。

　今回は「ここまでやっても大丈夫」の幅の中に「ガチンコのグラップリングマッチ」が含まれることになった。それをやってサマになるアスリートたちが、今のDDTには何人もいる。

　必殺技男子がカッコよかった、ニラの試合が久々に見れて嬉しかった、MAOは本格的に格闘技やったらかなり強くなるんじゃないか――『まっする』初の後楽園大会は、どんな見方も許容する優れたエンターテインメントになった。それを生み出したプロレスへの信頼と愛情が、何よりも“ガチ”だった。