松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラトライアスロン秦由加子は「なぜ、あえて義足をなくしたのか」松岡修造が聞いた
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/12/06 11:00
松岡修造さんの興味はインタビュー終盤になっても尽きることなく、秦選手の流暢な喋りに感心しながら彼女のラン用の義足を手にしたまま聞き入った
自転車は片足でもバランスは取れる?
松岡 片足で自転車を漕ぐというイメージがまずないですし、バランスが取れるのか不思議です。
秦 感覚としては片足立ちでバランスを取るのと同じで、バイクも片足で重心は取れます。少し違うのは、普通は右足と左足で交互にペダルを踏むので、右足で踏み込むときは左足が、左足で踏み込むときは右足が支点になってバランスを固定してくれます。でも私の場合は右足がないぶんコア(体幹)が支点になっています。
松岡 ホントですか? でも、そういうことなのか。
秦 だから健足側の左足の筋力をどんどんつけていけば、義足をつけないほうがいつかは速くなる。そのタイミングが必ず来るはずだと信じて半年間、左足のトレーニングを続けました。そして、ようやく切り替えることができたのが去年の9月でした。東京パラリンピックに間に合って本当に良かったという思いがありましたね。
松岡 ちょっとこれ、不思議な言い方になりますけど、由加子さんの足は左足だけではあるけれど、片足じゃないんだなと。僕にとっての両足の役割をしているというのが、なんとなくわかります。
秦 確かに、競技をしていて片足がないと感じる瞬間はないかもしれません。体のどこかが常に右足の代わりをしてくれているんでしょうね。
松岡 それは1つの進化ですよね。由加子さんがトライアスロンに挑戦したからこそ感じていけるもの。僕らには絶対わからないところが面白いなと感じます。
東京パラリンピック1年延期で「うふっ」?
松岡 自転車の戦法をチェンジして、気持ち的には「東京パラリンピック、早く来いよ!」って感じだったんじゃないですか?
秦 そうですね、上り調子で来ていて、今年2月末にオーストラリアで開かれたレース(世界トライアスロンシリーズ・デボンポート大会)で優勝もできたので。
松岡 優勝! キター!
秦 来たと思ったんですけどね(笑)。それ以降は新型コロナの影響でレースがなくなってしまったので、ちょっと残念です。ほんと調子が良かったので、そこから東京パラリンピック本番に向けて、まだ進化できるだろうと思っていました。
松岡 ショック度はどれぐらいでしたか? なんと言っても東京で開催されるパラリンピックですからね。
秦 そうですね……。でも、なんか、こう……うふっ。
松岡 「うふっ」て、何!? 言っても構わないですよ。