松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラトライアスロン秦由加子は「なぜ、あえて義足をなくしたのか」松岡修造が聞いた
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/12/06 11:00
松岡修造さんの興味はインタビュー終盤になっても尽きることなく、秦選手の流暢な喋りに感心しながら彼女のラン用の義足を手にしたまま聞き入った
秦 おかしいですよね(笑)。実は「時間ができた」って思いました。バイクを片足に切り替えたばかりで、まだ伸びている途中だったので、トレーニングして強くなる時間ができたと思いました。だから私はコロナによって前向きになれたんですよね。
松岡 僕、相当な数のアスリートに同じ質問をしてきましたが、「うふっ」という反応は初めてです。由加子さんは本当に前向きに捉えられたんでしょうね。そう思えなくても、そう思おうとしているアスリートがたくさんいる中で。
来年に延びて「よーし」という感覚。それだけ大事な1年ということですね。
秦 そうです。これまでいろんな選択肢があって、何が正解かわからない中、ずっと迷いに迷ってきました。その上での2月の優勝だったので、「自分が選択してきたことは間違っていなかったのかもしれない」って、ようやく思えたんです。周りの人たちもこうしたほうがいいんじゃないか、ああしたほうがいいんじゃないかって、いろいろ意見をくれるんですが、最終的に選択するのは自分。それには相応の時間が必要でした。それが、ようやくすっきりしてきたかなという感じですね。
コロナで、練習環境は厳しくなった?
松岡 このコロナ禍において、パラアスリートの皆さんはオリンピック競技のアスリートたちよりも、もしかしたら練習環境が厳しくなっているのかもしれないという心配があったんですが、どうでしょう?
秦 それはありますよね。そもそも体が弱いとか不自由だという前提なので、コロナにかかったらどうしようと不安な方は多いと思います。でも、常にいろんな不安の中で生きているので、もし何かができなくなっても、できるようになるためにはどうすればいいかという切り替えや工夫には慣れているというのもあると思います。
松岡 由加子さんにはパターンがありますね。今回のインタビュー、非常にシビアな話をしているので険しい表情になったりもするんですけれど、由加子さんは「うふっ」って言ったりもする。それが、本来はきついものを前向きに転換する力になっているんだと思います。
秦 まぁ、きついと思ったらそれまでだから。皆さんだって、きっとそうですよね。
松岡 いやいや、全然そうではないです。きついものはきついし、暑いものは暑いです。