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「クルマに追突され、背骨3カ所骨折…」大事故にあった“自転車フリーク”が「自室」で10万km走破した話
text by
山本健一Kenichi Yamamoto
photograph byTsutomu Iwabuchi
posted2020/11/04 20:00
自転車のオンラインプラットフォーム「Zwift」で、仮想空間上の仲間とチャットを楽しみながら練習を積む岩渕努さん
肩甲骨骨折&背骨を3箇所骨折しました
自転車競技やトライアスロンの練習中の事故は残念ながら珍しくはないが、17年8月、岩渕さんも大きな事故に遭ってしまった。
「人生がガラリと変わった、と言っても過言ではない出来事でした。佐渡国際トライアスロンに向けて自転車のトレーニングをしていたところ、後ろから乗用車に追突され、およそ30m宙を舞ってしまって……。肩甲骨骨折、背骨を3箇所骨折しました」
治療と懸命のリハビリのかいがあって、再び自転車を愉しめるまでに快復したが、その後のトレーニングメニューは一変した。
「リハビリを経て練習を再開したのは事故の5カ月後。それからは野外での練習をやめ、すべて室内でエアロバイクに乗るトレーニングに切り替えました」
事故直後は歩道を歩くのも怖かったというが、心身の傷は癒えたのだろうか?
「今でも室内トレーニングだけですが、その理由は恐怖心というよりはリスクの排除です。いざ事故に遭うと自分だけの体じゃないな、ということを実感した。事故を起こして、家族、職場、友人にどれだけ支えられているか、関係が繋がっているかを実感しましたし、逆にどれほど迷惑をかけたかということを痛感しましたから」
なぜズイフトにハマったのか?
そうして練習を再開していた2018年の冬、岩渕さんはズイフトと出会った。
「仙台の自転車ショップで、インドアトレーナー(ズイフトと連動して負荷などが変わる室内用の機器)のプロモーションをやっていたんです。これは楽しそうだなと。仲間からもアドバイスをもらい、試したところ『自分にあっているな』と」
そしてズイフトのあるひとつの機能が、岩渕さんの世界を広げた。
「当初は個人で乗ったり、ズイフトのレースに出たりしました。半年ほど経ち、仮想空間で海外のチームが行なっている“グループライド”に参加してみたんです。現実世界でも同じ場所に集まって同じペースで走るものがありますが、ズイフトのグループライドも同じです。イベントにエントリーして、開始時間になると集合場所にワープ。ライドをまとめるリーダーがいて、彼の周りに集って約1時間のライドをするのですが、いざ参加してみるとこんなに面白いものなのか、と思いました」
仮想空間でのグループライドは、岩渕さんの好奇心の強さと、人懐っこい性格にも合っていた。
「最初に参加したのはオーストラリアのティムさんが主催するライド。彼はズイフト内でグループライドを始めた先駆者なんですが、参加者同士がチャットで頻繁にやりとりをしていたんです。でも英語なので自分はわからず、何を話しているか知りたくてアプリで翻訳してみると、単なるジョークをかわしながら1時間ずっと走っていた。ティムさん自身も、グループから遅れた人をケアしたり、統率が乱れないようにしながらも、ジョークを言いあいながら走っていて。すごく楽しかったんです」