技術よりもリズム？ 元スペイン代表監督ロベルト・モレノが語る久保建英、中井卓大、イニエスタ

　レアル・マドリーのユースチームに所属し、先日トップチームへの練習参加で話題を集めた17歳中井卓大（愛称ピピ）。ジネディーヌ・ジダン監督もその能力を評価するなど、日本国内でも大きな期待を寄せられている。

　そんな中井がスペインへ渡ったのは9歳だった2013年。レアル・マドリー入団当時から通訳として彼をサポートしてきた稲若健志氏は、セルタやアトレチコ・マドリーのユースチームとの関係性も深く、スペインの育成年代を熟知する希少な日本人でもある。

　今回は稲若氏の知人でもある元スペイン代表監督のロベルト・モレノ氏との対談が実現した。育成年代から指導者の道を歩み始め、サッカー選手としてのキャリアを持たない稀有の存在であるモレノは、将来が期待される久保建英や中井、そして友人でもあるというイニエスタをどう見ているか。スペインサッカーを知り尽くす2人が、日本サッカーを語り合った。

選手経験なしでスペイン代表監督に就任したロベルト・モレノ（左）。ASモナコを退任以降、欧州中のクラブからオファーが届く注目株だ　©Getty Images

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友人イニエスタにも誘われた？

稲若健志（以下、稲若）　近年のJリーグではイニエスタをはじめとしたスペイン人の選手、監督が進出してくるようになりました。

ロベルト・モレノ（以下、モレノ）　トーレスやイニエスタ、ビジャといった一時代を象徴した選手達が移籍したのは大きいと思うよ。正直、それまでJリーグの存在も知らなかったが、彼らの存在がスペインにJリーグを「市場」と認識させた。友人であるイニエスタとは今でも頻繁に連絡を取るんだ。彼は日本での生活に非常に満足しているようだね。そして、日本人の勤勉で規律を重んじる文化を尊重していたよ。「日本人は誰もが真摯に一つのことに向き合う。この文化はフットボールの世界でも大切な要素だ」とね。

　イニエスタには、Jリーグで指揮を取ることは君にとっても得難い経験になると言われたんだ（笑）。リージョ（元ヴィッセル神戸）やロティーナ（セレッソ大阪）らスペインでも知られた監督も在籍したしね。リップ・サービスではなく、将来的にJリーグに行ってみたいという思いは持っているよ。

稲若　スペインの優秀な監督でも、Jリーグで優れた成績を残しているとはいえない状況です。そこは日本サッカーの特殊性を感じる部分でもあります。

モレノ　環境や文化が異なる場所に移ることはどんな指導者にとって難しいものだ。おそらく日本の選手も、リージョやロティーナもお互い戸惑う部分も多かったんじゃないかな。ただ、その一方で海外での経験を持つということは人間的な幅を広げるというメリットもある。個人的な意見だが、指導者は経験を積むためにチャンスがあればどんどん新しい環境に飛び込んでいくべきだと思う。いろんなタイプの選手を指導することで、自身の引き出しは広がっていく。まだスペイン人監督の中で、日本でのノウハウが蓄積されていないというのは大きな要素だろう。

久保建英とは対戦経験がある

稲若　日本では久保建英のラ・リーガでの挑戦が大きな注目を集めています。

モレノ　（ダニエル・）カルバハルと同じように、レンタルで出してから戻すという近年のマドリーの育成プログラムに久保も組み込まれているね。久保のことはユース時代から何度も見てきてよく知っている。私がバルセロナでヘッドコーチをしていた2017-18シーズンに久保は日本にいたようだが、11年にユースにいた彼と（コーチとして）対戦したことがある。その技術の高さと、サッカーに対する理解度の高さに驚いたね。もともと才能は疑いようもない選手だったが、18歳からリーガのスピードにも適応を見せているのは特筆すべき点だろう。

　彼の場合は幼少期からバルセロナに所属し、語学の面やスペインサッカーの土壌を学んでいたのが大きいと思う。ドリブルで仕掛けることができる選手であり、何より状況判断にも優れている。

　彼の課題は明確でディフェンス面だろうね。マドリーのようなビッグクラブで戦うには、まだプレー強度の面で成長する必要がある。ディフェンスが良くなってくれば、よりレベルの高いクラブに挑戦できるだけのポテンシャルは秘めていると思うよ。

2011年に久保と“対戦”したというモレノは、その高い技術に驚いたという　©Getty Images

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