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技術よりもリズム? 元スペイン代表監督ロベルト・モレノが語る久保建英、中井卓大、イニエスタ
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byGetty Images
posted2020/10/30 06:00
元スペイン代表監督ロベルト・モレノは久保建英の適応力に驚きつつも、課題も教えてくれた
「競争できる環境がないと育たない」
稲若 FIFAルールが代わり、久保建英やピピ(中井卓大)のように幼少期から海外クラブに在籍するということが非常に困難になっていますね。この点は、強豪国とそうでない国の差を一層広げるような気がしています。
モレノ 1つ言えることは高いレベルで競争できる環境がないと選手は育たないということだ。たとえば、バルセロナでは対戦相手のレベルを上げるためにカタルーニャ州全体のチームに対して援助を行っている。対戦相手のレベルが上がることで、高いレベルでの競争が生まれるからだ。そうしたサイクルを作らないと、選手が成長していかないという考え方が浸透しているんだ。
久保にしてもピピにしても同じことが言えるが、日本の同年代でいえばトップの選手だったと思う。ただ、世界を見渡すと上には上がいる。そんな才能溢れる原石達でも、トップチームへとたどり着けるのはほんの一握りだ。もともとの能力を伸ばすためには、自分よりレベルが上の選手がいる環境に身を置かないならない。
別の言い方をするなら、日本と強豪国との間に差があるとすれば、選手の平均値を上げる術と、指導者の質ともいえるね。ヨーロッパに移籍する選手は増えても、指導者はなかなか出て来ないことは1つの判断基準といえるだろう。
日本との決定的な差は「リズム」
稲若 レアル・マドリーのカンテラ責任者と話している際に、「日本人がどんなにうまくてもレアル・マドリーでプレーできないのは大きな1つの問題がある。それはプレーのリズムだ。そこが明らかに違う。そこが変わらない限り、どれだけ技術がある選手でもプレーすることは難しい」と話していたのが印象に残っています。
モレノ 分かりやすい例でいうならエイバルの乾だろう。彼の技術はスペインの中でも非常に高い評価を得ている。そんな乾でも、リーガに適応するには時間を要した。理由は単純な走る速さや運動量、パススピードの話ではなく、頭のスイッチの切り替えの速さの問題だといえる。そして、これは幼少期から積み重ねられてきたものでもあるんだ。
久保やピピが違和感なくプレー出来ているのは、その速いリズムを持っているから。どれだけ技術レベルが高い外国人選手でも、バルセロナやレアルのユースのテンポにアジャストし、生き残っていくのは難しい。慣れる時間も必要だし、環境に適応するセンスも必要となってくるんだ。
そして、正しいポジショニングを理解しているということも強みになっている。日本人選手が海外に移籍した際、その多くがこのリズムやポジショニングで苦労しているように映る。もし久保やピピが今よりもレベルが落ちるリーグやチームでプレーするとしたら、そのスピードに周囲がついていけない可能性もある。判断スピードの速さというのは、高いレベルになるほど重要性が増す。