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72m投げられたら気持ちいいんだろうな…やり投界の癒し系・北口榛花が理想とする一投って?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2020/10/27 17:00
10月の日本選手権では2位、今季最終戦でも風に苦戦して3位に終わった北口。助走歩数の変更など、夢の「72m」へ向けて着々と進化を続けている
まさかチェコに1人で来るとは
実は2015年世界ユースで金メダルを獲得し、16年には当時の日本歴代2位も記録するなど、順調に成長していた北口だったが、その後の2年間は記録が伸び悩んでいた。
「このチャンスを逃してはいけないって思っていました。今の状態を脱出するには何かを変えなければいけなかった。当時(大学に)専門のコーチがいなくて、思い切って『見てもらえますか?』とお願いしてみたんです。そしたら、コーチも『いいよ』と答えてくれて。でも、後々聞いた話によると、コーチは本当に私が1人でチェコに来るとは思っていなかったらしいですけど(笑)」
セケラック氏の指導の下、トレーニングに励んだ北口は下半身の使い方を改善し、課題だった助走のスピードも向上した。特徴の1つでもある腕の振り切りがより生かされる投げ方を身につけ、それが66m00cmの日本記録にもつながった。
春から助走歩数を変更
そんな彼女は今、課題としている助走の改善にさらに力を入れている。その1つが、今年春から変更した助走歩数の配分だ。
前向きに進む保持走と横向きに走るクロス走に分けられる助走。北口はこれまでは助走歩数の配分を8歩-8歩としていたが、「どうしても横向きに走るとスピードが落ちてしまうので」と、今年春から10歩-6歩に変更した。
東京五輪が延期になったとはいえ、大舞台までの時間はわずかだ。そんなタイミングで変更することに迷いはなかったのだろうか。まして、コロナ禍の状況下でセケラック氏から直接指導を仰ぐこともできない。
「助走は以前から私の課題なんです。いずれにしても、さらに記録を伸ばすためには、何かを変えなければいけないんじゃないかなと考えていました。オリンピックが延期になったことで、この1年で何かできるんじゃないかなと思いました」
セケラック氏からは「なんでチェコにいるときにやらなかったの?」と言われたという。
「コーチには『チェコにいるときには思いつかなかったんです』と言いました。 この助走でやってみたいんですけど、と突然伝える形に。『本当にやるのか?』『以前の形に戻したらどうだ』とアドバイスもされました。でも、その時点で新しい助走で練習するようになって時間も経っていて。元の助走のリズムは忘れているし、後戻りはできないからこれで行きます!って。このまま続けていけば徐々に身になっていくと思いますし、少しずつ手ごたえも感じられるようになっています」