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72m投げられたら気持ちいいんだろうな…やり投界の癒し系・北口榛花が理想とする一投って?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2020/10/27 17:00
10月の日本選手権では2位、今季最終戦でも風に苦戦して3位に終わった北口。助走歩数の変更など、夢の「72m」へ向けて着々と進化を続けている
アプリを使った指導、チェコ語は勉強中
現在、チェコにいるセケラック氏とはチャット機能のあるアプリを使って連絡を取り合い、送られてくる練習メニューをこなす。北口も練習の動画などを送り報告するなど、離れていても密に連絡を取り合いながらさらなる強化を図っている。
「普段は英語でやり取りしているんですが、時々私が調子にのって勉強中のチェコ語で返すと、返信が全部チェコ語になっていることがあって(笑)。そこまでは分からないんだけどなーと思いながら、翻訳をかけて読んで、コーチに返してますね(笑)」
72m投げられたら気持ちいいんだろうな
とにかく常に明るく笑顔を絶やさない。おっとりとした印象で独特の存在感を漂わせるが、わずか2cm差で逆転負けを喫した10月の日本選手権のことをたずねると、少し表情を曇らせ「悔しいです」とひと言つぶやいた。
「世界を想定して戦っている以上は、どんな状態であれ、負けは許されないと思っています」
日本記録保持者としてのプライド。そんな彼女が理想とする“一投”とは。
「正直、まだ模索中で定まっていませんね。ただ、高校生のときにチェコのバルボラ・シュポタコバ選手の動画を見て、彼女の投てきに惹かれて、“こういうふうに投げたいな”と思ったことはありました。人はそれぞれ体格など個人差があるように、私にも私だけの特徴がある。それを生かしながら自分にしかできない投てきを作り上げていきたいと思っています」
72m28cmの世界記録を持つシュポタコバは大きな目標だ。「いつかは自分も」と目を輝かせる。
当面は昨年8月に中国の呂会会が樹立した67m98cmのアジア記録が1つの指標となるだろう。
「練習の合間に男子選手が女子用のやりを使って投げることがあるんですが、すごく遠くまで飛ぶんですよ。それが見ていてとても爽快で。私もそれぐらい投げられたら気持ちいいんだろうなって。そういう意味でも、(世界記録の)72mは1つの大きな目標です」
今季最終戦、10月24日の木南道孝記念陸上競技大会は風に苦戦し、58m36cmの3位に終わった。社会人1年目となった今季は北口にとって不本意なシーズンだったに違いない。しかし、立ち止まってはいられない。このオフ、助走にさらに磨きをかける。