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【順大医学部合格】「ローリスクを選びがち」という福岡堅樹は、なぜラグビー引退を悩まなかったのか
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAsami Enomoto
posted2021/02/20 19:50
「医師になる」その夢に続く道の途中でラグビーに出会い、結果を出してきた
「もともと僕の夢は医師になることでした」
これからだってその爽快感を何度も味わえるというのに、ユニフォームを脱ぐと言って聞かないのだから不思議に思う人も少なくない。「最後の舞台」と公言していた7人制ラグビーでの東京五輪出場を断念すると発表したのは6月14日のことだった。
本人いわく「終わりが決まっているから頑張れるタイプ」であり、いたずらに計画を延期した自分が期待どおりの力を発揮できるとは思えなかったし、自分自身が決めたタイミングを自分自身の選択で変えるのもイヤだった。だから予定どおり、ここで頭を切り替えて次のステージへの準備を加速させる。「それもめぐり合わせ」と考えれば、思い悩む必要もなかった。
一応ながら念を押した。本当の本当に、少しも悩まなかったのか。
「まあ、多少は(笑)」
もしも2016年のリオ五輪に出場していなかったら?
「それは違ったと思います。結論が違うかどうかはわからないけれど、考える過程における自分の心境は違ったはずです」
次の言葉でこちらの勘違いが判明する。
「ただ、もともと僕の夢は医師になることでしたから。そこに向かう過程で別の挑戦や可能性が見えてきて、それがラグビーでした。最高の舞台であるW杯と五輪で納得できる結果を出せたからこそ、切り替えるタイミングはここだったのかなと」
ラグビー選手が医師を目指していたのではなく、医師の卵がラグビーに熱中した。だから本道に戻る。当たり前のことだ。
「どうせやるなら自分にしかできないことをやりたい。世界のトップレベルを体感したアスリートが考える医学。それを独自の視点として持つことが、自分の強みなんじゃないかと思っています」
福岡らしい「化学」が好きな理由
現在は週の半分をラグビーに、残りの半分を受験勉強にあてている。目標は1月に開幕するトップリーグ出場と、志望校に合格することだ。勉強については得意・不得意がそれほどなくどの教科も平均的に点数を取るスタイルだが、「化学」は昔から好きだという。「理屈がわかると納得できるから」という理由が、なんとも彼らしい。
「これでも、ベースとしてビビリなところがあるんですよ。できるだけリスクを抑えたいし、少しでも堅実な道を行きたい。選択としては、割とローリスク・ローリターンを選びがちなんです」
そんなの嘘だ。絶対に嘘。そんな人が、あんなトライを決められるわけがない。むしろ福岡は、常にハイリスク・ハイリターンの賭けに挑んできたのだろう。尋常じゃない努力でそれに勝とうとするからこそ、モニュメントになるほどの名シーンでボールが回ってくるし、楕円形のボールがちょうどよく弾むのだと思う。
福岡堅樹Kenki Fukuoka
1992年9月7日、福岡県生まれ。福岡高から筑波大学へ進学。'16年にパナソニックに加入した。'13年に代表入り。'15年W杯出場。'16年リオ五輪では7人制日本代表に選ばれた。昨年のW杯では4トライを挙げ、ベスト8進出に貢献した。代表キャップ38。175cm、83kg。