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【順大医学部合格】「ローリスクを選びがち」という福岡堅樹は、なぜラグビー引退を悩まなかったのか
posted2021/02/20 19:50
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Asami Enomoto
<初出:Sports Graphic Number 1013号(2020年10月22日)「28歳医学部受験生の二刀流公開 福岡堅樹『どうせやるなら自分にしかできないことを』」、肩書きなどすべて当時>
「持ってますよ」と福岡堅樹がニヤリ。「持ってるんですか!」とフォトグラファーもニヤリ。
バッグの奥から参考書とノートを取り出すと、なぜか「おー!」と歓声が上がった。それを耳にして少し照れ臭そうに、福岡は別室での撮影に向かう。
「毎日ってわけじゃないんですけどね」
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朝から静岡でのイベントに参加していたこの日は、移動時間を活用するため「たまたま」バッグに入れていたという。周知のとおり、現在の彼は世界に名の知れたラガーマンであり、医学部合格を目指す受験生でもある。参考書とノートを介して二刀流の肖像を撮影するその間、待機するマネージャーがポツリと呟いた。
「たくさんのラグビー選手と関わってきたけれど、アイツだけです。初めて出会った時から引退のことを口にしていたのは」
大学生時分にして既にくっきりと描いていたキャリアの幕引きを、福岡は間もなく迎えようとしている。
「テンションが上がってケガの不安も吹き飛びました」
あの激動のワールドカップから、1年という時間が流れた。
「目標を定めて“どう向かうか”を決めるタイプだから、目標がなくなると時間の経過を点で区切れなくなってしまって。だから、すごく早く感じた1年でした」
この日の午前中に参加したのは、静岡県のエコパスタジアムで開催された「W杯開催1周年記念イベント」だった。1年前の2019年9月28日、当時世界ランク2位のアイルランドとのプール第2戦で、福岡は日本の大金星を手繰り寄せる逆転のトライを決めた。あの劇的なワンシーンをモチーフとするモニュメントがスタジアム敷地内に設置されることになり、その除幕式にゲストとして呼ばれたのである。
「記念碑だから僕に似せて作っているわけじゃないけれど、『どんな感じかな?』とは気になりますよね。紐を引っ張る瞬間は、やっぱりちょっとワクワクしました」
W杯で記録したトライは4つ。1年後の今に思うそれぞれの「意味」を尋ねると、「チームにとって特別なもの」としてやはりこの一撃をピックアップした。
「トライに至るまでの一連の流れが、僕たちが時間をかけて準備してきたそのものでした。世界のトップ3に立つ相手に対して、あれだけキレイに示すことができた。しかも、あの時間帯に。それまでの日本は強豪相手に60分を過ぎたあたりから点差を引き離されることがほとんどでした。だからあの時間帯に逆転して、しかも勝ったことの意味は本当に大きかった」
トライを決めて立ち上がる福岡に仲間たちが駆け寄って飛びつき、塊はたちまち大きくなって主役は埋もれた。その興奮に、あの一撃の価値は見て取れた。
「あれはテンションが上がりました。試合に出てすぐのことだったんですけれど、ケガの不安なんて吹き飛びました」
大会直前に負った肉離れが、あの段階で全快していたわけではなかった。