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内村航平の心意気を継承した萱和磨が珠玉の挑戦 「チームのために戦えないと個人でも戦えない」
posted2020/10/26 17:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
9月に開催された体操の全日本シニア選手権で、社会人2年目の萱和磨(セントラルスポーツ)がたくましさを増した演技を披露し、男子個人総合連覇を果たした。鉄棒一本に絞った内村航平が大きな注目を浴びた大会。個人総合では萱が全選手でただ1人、6種目とも14点以上を出すハイパフォーマンスで、昨年の世界選手権銅メダルに相当する86.998点をマークした。
持ち前の安定感もさることながら、攻めの演技構成が光った。なかでも珠玉の挑戦だったのは跳馬だ。萱が昨年まで使っていたのはDスコア(演技価値点)5.2点の「ドリッグス」。今回は5.6点の「ロペス」に挑んだ。ラインオーバーこそあったがしっかりとマットを踏みしめて、小さくガッツポーズ。14.333点を出し、「恐怖心もある技。気合で立った」と満足げに言った。
ロペスに挑んだ理由は明確だ。「去年の世界選手権では、団体で銅メダル。個人総合でも跳馬で大きく離された」からだ。萱が振り返るように、個人総合決勝では序盤こそ上位に食らいついていたものの、4種目めの跳馬で差をつけられて表彰台争いから後退した。萱以外の上位勢はほとんどがDスコア5.6点以上の技を跳んでいた。
「今まで他の種目を強化してきて残ったのが跳馬だった。ロペスを跳ぶとチームにも貢献できる」
思い出すのは0.1点差で敗れた'14年
萱の言葉で思い出すのは、日本が団体で中国に0.1点差で敗れた'14年世界選手権。この結果を受けた内村が跳馬で「リ・シャオペン」(現在のDスコア5.8点)に挑むと決断を下した大会だ。内村はそれまで使っていた技より難度が0.2点高いこの大技に、「打倒・中国」の思いを凝縮させた。「跳ぶたびに死ぬかと思うほどの恐怖心がある」(内村)と言いながらも選んだのは、何としてでも日本を頂点に導くため。内村は'16年リオデジャネイロ五輪でこの技を成功させ、12年ぶりの団体金メダル獲得に貢献した。
全日本シニア選手権で萱は団体連覇も果たした。「チームのために戦えない人は、個人戦でも戦えないと思っている。仲間のためにバトンをつなぐのは特別な感覚。東京五輪も団体があるので、日本として勝ちたい」。内村の心意気を継承した男が日本を引っ張る。