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内村航平「やっぱ、むずいな」 離れ技でミスも“1分間の鉄棒決戦”で五輪へ新たな一歩
posted2020/09/27 08:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
1分間の演技に今のすべてを凝縮させた。
9月22日、群馬県高崎アリーナで行なわれた体操の全日本シニア選手権。鉄棒に絞って東京五輪を目指す内村航平(リンガーハット)にとって、“スペシャリスト宣言”以降、初の試合は、インターネットによるライブ配信を44万人の視聴者が見つめる中で行なわれた。新型コロナウイルス感染拡大防止策により、観客数は1000人以下に抑えられ、メディアの人数も制限されたが、さすが五輪2大会連続金メダリストと言える注目度の高さだった。
試合時間が近づき、ウォーミングアップ会場から本会場に移動した内村は、所定の席に着くと、まずは演技構成全体をなぞるように身振り手振りを交えながらイメージトレーニングを始めた。続いて、天井を見上げるような動きを入念に繰り返した。試合で初めて使うH難度の離れ技「ブレットシュナイダー」で、バーから手を離すときの首の角度を何度も確認したのだ。
よく分からない空間に放り込まれたような感覚
会場全体から拍手を受けて演技開始。注目のブレットシュナイダーは冒頭に組み込まれた。内村は高さ十分の状態で空中に飛び出し、巧みに体を2回転させながら2回ひねった。しかし、バーに近づきすぎてしまい、車輪につなぐことができなかった。結果は、演技構成の難度を示すDスコア6.6点、出来栄えを示すEスコア7.600点で、合計14.200点。6位だった。
「やっぱ、むずいな」
演技を終えて席に戻るなり、そう呟いてしかめっ面を浮かべた。とはいえ、世界でも数えるほどしか成功者のいない超大技への初挑戦で、しっかりと難度認定された価値は大きい。昨年8月以来、約1年1カ月ぶりの試合。しかも、長年、身体にしみ込んでいる「6種目・2時間」ではなく、「1種目・1分」という初体験のスケジュールである。
「何を言っても言い訳にしかならないけど、1種目だけに向かう気持ちがまだ分かっていなかったのと、1年ぶりの試合であることを冷静に考えると、よく分からない空間に放り込まれたような感覚があった」