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「あとでジェイミーには怒られました」ベテラン35歳田中史朗が1年経って明かす“ベスト8の舞台裏”
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/10/28 17:00
自身3度目のW杯はベンチスタートのインパクトプレーヤーとして 活躍したSH田中史朗。4度目のW杯も「行きたい」と願う
ベストプレーは? 予想外の答え
実は編集部では田中がこの一連の流れをベストプレーの1つに挙げると予想していた。まさに劣勢だった流れを変えるようなプレーだったからだ。しかし、その答えは違っていた。
「あれは中村亮土の縦の突進とレメキ(ロマノ ラヴァ)の縦、そして最後は亮土とティム(ラファエレ ティモシー)のパスですかね。僕は別に何もしていないので」
それよりも……と言葉を続ける。田中が印象に残っているプレーの一つが、Number1013号でも語っていた後半のディフェンスだった。出場した24分間で見せたタックルは7本。そのうち見事に6本が決まった。
「福岡のトライが決まってからは、“絶対にディフェンスに行け”と声を出し続けていました。みんながその思いを持ちながら、試合が終わるまで遂行できていたんじゃないかなと思います。それが勝利につながった」
「ジェイミーには怒られました」
ロシア戦68分の相手裏へのキックが最も印象に残っているというが、次に挙げたのが、サモア戦64分、相手スクラムハーフがボールをさばく寸前に行ったタックルだった。
「体を張るということは常にやらなければいけないことだと思っていました。もし、あそこでミスをしていたらペナルティになる可能性もあったので、そういった意味では今までの経験が生かせたプレーだったのかなと思います。でも、あれも結局は福岡とティムが、その前の選手にうまい具合にオーバーされ、相手9番の選手が丸見えになっていたからなんです。あのプレーも2人のおかげかなと思います。僕がタックルに行った後もみんながきてくれましたし、その結果、マイボールにもなった。僕のプレーというよりもチームという感じですね」
続くスコットランド戦では、自身のコントロール不足を悔やんだ。
「僕が入る前にトライされたんですが、その後も相手の攻撃が続いて、なかなかテンポを変えることができなかった。日本が攻めたときも何もできないままターンオーバーされて。みんなが献身的な動きをしてくれた結果、勝つことができましたが、あとでジェイミーには怒られました」
2015年W杯と役割こそ違ったが、試合の流れを見極めながら、途中出場すると、豊富な経験に裏打ちされた緩急自在のゲーム運びをみせるなど、クローザーの任務はきっちりと遂行した。確かに、日本代表には欠かせない存在だった。