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「あとでジェイミーには怒られました」ベテラン35歳田中史朗が1年経って明かす“ベスト8の舞台裏”
posted2020/10/28 17:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Kiichi Matsumoto
歴史的勝利と言われたプール第2戦のアイルランド戦。「強いなとはずっと思っていました」という田中史朗は、決戦前、少なからず不安を感じていた。
一方で熱を帯びたジェイミー・ジョセフHCの言葉に勝機を感じてもいたという。
「誰も俺たちが勝つとは思っていない。俺たちがやってきたことをみんなは知らない。嵐を巻き起こせ……みたいなことを言ってくれたときに、チームが1つになったというか、あの言葉ですごく自信がついたと思います。“絶対に勝つ”。みんながそう思っていましたね」
2013年に日本人として初のスーパーラグビー選手となったパイオニアは、2015年にはジェイミーHCの下、ハイランダーズ(NZ)の初優勝にも貢献した。
「ハイランダーズのとき、ある試合前のミーティングで選手一人ひとりに鍵のようなものを配って、“鍵が1つだけでは(扉は)開かない”というような話をしたことがありました。その鍵を1つにまとめてテープでぐるぐる巻きにして。(1つになった鍵を選手に見せながら)これで扉は開くんだみたいなことを話していたんですよね」
W杯でも同じようなシーンがあった。
開幕戦前夜、ジェイミーHCは母国のマオリが戦いで用いるグリーンストーンを選手一人ひとりに渡した。戦いに向かう際にこれを持っていってくれ、と。
「こういう人こそがチームを勝利に導ける、モチベーションを上げるために何かできる人なんやなと、あらためて思いました」
途中出場5試合、“インパクトプレーヤー”の仕事
W杯3大会連続出場のベテランスクラムハーフは、アイルランド戦を始め、出場した5試合すべてベンチからスタートし、まずは戦況を見守った。
「劣勢であれば流れを変えるようなプレーが求められ、逆にイケイケのときに入るのであればそれを継続し、さらに加速させることがインパクトプレーヤーの仕事。流れがいいときも悪いときも、いろいろと“読む”ことが求められるので難しいといえば難しいのですが、みんなが疲れているときに投入され、重要な役割を担う。そこでもう一度、元気やエナジーを持ってもらえるようにチーム全体に声掛けすることを常に意識していました」
アイルランド戦では、流大にかわって後半16分に途中出場し、その2分後には、敵陣22mエリア右中間からの連続攻撃の起点となった。力強いボールキャリアへじっくりつなぎ、相手が反則するや左大外へ展開。最後は福岡堅樹がインゴール左に飛び込みトライを決めると、日本は逆転に成功した。