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“NHLに最も近い男”が異例の契約?「日本のアイスホッケーを変える。誰かが行動しないと始まらない」
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph byYokohama GRITS
posted2020/10/22 20:00
開幕戦で得点を挙げるなど新生チーム・横浜GRITSを牽引する平野裕志朗。11月下旬には再びアメリカへ渡る予定だ
異例の短期契約で加わった横浜GRITS
そんなアメリカの最前線で戦う平野がこの秋、日本へ戻ってきた。アメリカのリーグが開幕する12月に合わせて11月下旬に再渡米するまでの間、異例の期限付き契約で、ある日本チームと契約した。
横浜GRITS(グリッツ)。今季からアジアリーグへの加盟を認められた新生チームだ。
かつて日本のアイスホッケー界には、日本チームだけが所属するトップリーグが存在していた。しかし、2004-2005年シーズンにそのリーグが休止となったことで、前年から発足していた「アジアリーグ」が国内リーグとして認識されている。アジアリーグには日本のチームだけでなく、韓国やロシアなどのチームも加わっており、横浜GRITSは今季から新規参入した。
ここでふと思うのは、短期契約とはいえ、アメリカで活躍する平野が、なぜ生まれたばかりの日本の新興チームに加わるになったのか。そこには平野がここまで語ってくれた日本アイスホッケー界への思いが大きく影響している。
「横浜GRITSは、アイスホッケー界にとって救世主だと思っています。というのも、アイスホッケーがサッカーや野球に続く大きなスポーツとして『横浜』の地に根付くようになっていけば、今後の未来が大きく変わってくる。これまで都会にプロチームがなかっただけに、これを1つのステップにしてやっていかないといけないと思っています。個人としても、過去の縁もあって『ぜひ来てくれ』と誘いも頂いたので、恩返しではないですけど、自分がいることでチームに対して何かいいものを残せたらなと思っています。それに『横浜』だからこそ、自分にとってプラスになることは多い。(企業や人との)つながりや、自分が今まで暮らしたことがない環境でプレーすることはかなり刺激になると思っています」
なぜ「救世主」なのか?
世界を知る男が横浜GRITSを救世主と話す理由はいくつかある。
1つは、横浜GRITSが採用する「デュアルキャリア」だ。各企業で働きながらプロのアスリートとしても活動することができるこの制度は、現役選手のセカンドキャリアに対する不安を解消し、有望な若手選手たちの将来の不安を取り除くことができる施策として大きな注目を集めている。
もちろん、モデルケースになれるかは今後の活動に懸かっているが、日本のアイスホッケー界への価値観を変えることができれば、選手の流出を防ぎ、下降傾向にある競技レベルを引き上げることにもつながる可能性がある。
「他にはない環境だと思います。選手自身も相当、身を削っている。だからこそ、やり切らなければいけない。こういう形でもやれるんだということを証明していかなければいけないと思っています」
この施策に平野も賛同。短い時間ではあるが、企業への挨拶回りやシューティングクリニックというアイスホッケーのスクールで子供たちの講師を務めるなど、取り組みに協力している。また横浜GRITSはフロントスタッフを含め、多くのボランティアの方がいることも見逃せない。スポーツ界に限らずさまざまな業界からチームに賛同した人々が手を貸し、成功のための一助となろうとしている。
そこに平野は大きなポテンシャルを見出している。
「今はまだまだできたばかりですけど、他と比べてもネットワークは間違いなく広いと思います。大企業は都会に集まっているのもありますし、応援してくれる人たちとつながっていければ、やはり規模は拡大していく。大都会だからこそ、横浜だからこそできること、他ができないことをやれる力がある。ボランティアで働いているスタッフの人たちも本当につながりが広い。そこを生かせれば、日本を代表するようなチーム、アイスホッケーを代表するようなチームに数年でなれるチャンスがあると思います」