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「カネを出さなければ勝てない!」2年連続最下位でも…野村克也が阪神オーナーを説教した日 

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清武英利

清武英利Hidetoshi Kiyotake

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posted2020/10/09 17:02

「カネを出さなければ勝てない!」2年連続最下位でも…野村克也が阪神オーナーを説教した日<Number Web> photograph by Bungeishunju

甲子園球場

〈成功する為には、一心不乱で事になりきり、やり遂げること、結果に囚われずやること、仕事にも勝負にも大局に立ち、私情を入れぬことだ〉

 常勝球団であるには必須の条件がある。その一つは、その球団が真似のできない強みを持ち続けているか。そして球団やチームを率いる者が、心底からナンバーワンの座を渇望しているかどうかだ。

「成功は一日で捨て去れ」

 川上は王貞治や長嶋茂雄を擁して、補強策も取り入れながら、いち早く、大リーグのドジャースからスモールベースボールを導入した。一時的な成功に飽き足らず、他の球団に先んじて先進の戦法を導入しようと努めていた。コア・コンピタンスは常に新しいものに取って変わられることを意識しない限り、時代遅れのものになりかねない。

 経済界には、ユニクロ創業者の柳井正のように、「成功は一日で捨て去れ」と言って、イノベーションや社内改革を続ける人物がたくさんいる。彼は著書にこう記している。

〈仮に成功の方程式のようなものがあって、あらゆる現象を分析してそれを作れたとしても、一瞬の間に周りの状況が変わるので、その方程式もすぐに使い物にならなくなる。常に現実で起きていることを自分の感性で見て判断し、かつ論理的・分析的に進める。その二つの総和と統合が必要なのだ〉(『成功は1日で捨て去れ』新潮社)

オーナーを説教した野村

 川上と正力の関係に対して、野村(克也)と久万(俊二郎:阪神タイガースオーナー)のそれはかなり異なっている。出会ったときに野村がすでに名将と呼ばれていたこともあるが、説教をするのはオーナーではなく、むしろ野村だった。

 野村がタイガース監督に就いて2年目の2000年7月17日のことである。野村が宿舎とするホテル「ザ・リッツ・カールトン大阪」3006号室で、彼は久万と向かい合っていた。久万の隣には、オーナー代行で阪神電鉄社長の手塚昌利が座っている。

 1年目の野村阪神は最下位に終わっていた。それでも野村への期待から入場者総数は前年より62万11000人も増え、2年ぶりに200万人を突破している。それもあって、6月末に開かれた阪神電鉄の株主総会では、手塚が契約通りに3年目も続投と明言していた。

 ただ、2年目も選手は踊らず、79試合が終わって34勝44敗1分、またもやどん尻である。タイガースOBや評論家たちはここぞとばかりに野村の采配を責め、行方には暗雲が垂れ込めている。

 野村に批判的で「虎番野党」と見られているスポーツニッポン紙は、〈株主総会で「野村監督続投」〉〈えっこの時期、この成績で!?〉という見出しを立て、早くも解任と騒動を期待する書きっぷりであった。

【次ページ】 「投手がマウンドでオロオロしている」

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