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「カネを出さなければ勝てない!」2年連続最下位でも…野村克也が阪神オーナーを説教した日
text by
清武英利Hidetoshi Kiyotake
photograph byBungeishunju
posted2020/10/09 17:02
甲子園球場
「今の一軍コーチは、サラリーマン的になっています。世渡りや人間関係ばかりに比重がかかり、指導に愛情や熱意が感じられない。日頃から、『コーチの仕事の評価はその内容である』と言っているんですが、彼らは人脈ばかり気にする傾向にある。岡田二軍監督とも話をしますが、『ファームは勝利よりも育成優先』と言いながら、実際は勝ちに行っているように見えます」
できれば自分が二軍のコーチをやりたい心境ですよ
久万は岡田が好きで将来の監督にと思っているのだが、野村は強情な岡田とそりが合わない。そして辛辣に結論付けた。
「広島カープのファームは、とにかくよく練習をするらしい。その結果、活きのいい若手が育成されてます。選手の自主性を待っているだけでは、練習量不足は解消できません。無理やり練習をさせるように仕向ける必要を最近感じました。
ファームのシステムを再考することが急務です。二軍のコーチには、『野球の虫』的な人材を配置しなければなりません。できれば自分が二軍のコーチをやりたい心境ですよ」
「補強にカネをつぎ込んでくれ。カネを出さなければ勝てない」
野村はもともと「選手は素材が大事だ。四番打者とエースは育てられないですよ」と久万に告げてきた。だからスカウトこそが肝心かなめだ、と繰り返し、さらに「補強にカネをつぎ込んでくれ。カネを出さなければ勝てない」と強調している。つまり、タイガースには巨人に対抗できるような良い人材がいないし、スカウトたちも集めてこなかったというわけだ。ちなみに、久万はカネのかからぬ自前育成論者である。
ところが、この日はそれに加えて、コーチもファームもダメ、何もかもなっていない、と酷評されてしまった。コーチの一部は野村が連れてきたのに、という気持ちも久万にあり、野村は褒めることが下手だ、とも思っている。
彼は海軍予備学生から少尉に任官していて、タイガースの幹部たちには時折、「自分のいた海軍では」と切り出しては、「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」と元連合艦隊司令長官・山本五十六の名言を語ったりしていたのだ。いつもなら、そんな言葉を持ち出して、野村に、あんたにも問題があるんやないか、とやり返すところだが、この日はかなり違った。
「タイガースOBを見渡しても優秀な指導者がいない。来季に向けて、コーチングスタッフは監督の希望する人材を集めて頂いて結構です」
とまで言って、こんな感想を口にした。
「今日いろいろと話を聞き、タイガースはチームの骨格から作り直す必要があるので、相当の時間を要するという風に感じました」
それは久万の実感なのである。
(【前編を読む】「これは“野球版”半沢直樹だ」どん底の“広島カープ”に転職した営業企画課長はダメ球団をどう変えた? へ)