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静岡の高校サッカー“奇跡の8人勝利”は美談なのか 「なぜ1年生部員がゼロなの?」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph bySatoshi Shigeno
posted2020/10/06 17:01
試合後、自分たちで用具を運ぶ下田高校の選手たち。部員数減少の影響はこんな形でも出ている
「攻守で数的優位を作れるように」
その一戦を窪田陽輔監督はこう振り返る。
「展開としては前半に先に取られて、我慢をしながら身体を張って守備をする展開でした。後半に同じく寺嶋を前において、残りの7人でしっかり守ってつなぐことをした結果、寺嶋が上手く突破してゴールを決めてくれた。2回戦も同じ展開だったので、やることははっきりしていたのだと思います」
唯一の攻撃の駒である、寺嶋のプレーぶりをじっくり見てみる。必死にポストプレーをこなす様子は大迫勇也的だし、自ら中盤に降りて(数的不利を何とかするためには降りざるを得ないのだが)パスを散らす姿は柴崎岳のようだった。――言いすぎだろと思うかもしれないが、それくらいの役割をこなしていたのである。
もちろん、チーム全体でもどうにかして攻める意識は確実にあった。
「人数が少ないということは(新チームが)始まる前から常に話していました。なので、自分の目の前の相手をマークすることプラス、仲間を助けるためにどこまで走れるかということは練習中からもたくさん話してきました。そしてチャンスがあればオフェンスでもディフェンスでも数的優位の2対1を作れるように……そういう意識づけはしてきました」(窪田監督)
ただでさえスタート時から3人少ない状況での戦いなのに、“何とかして数的優位を作り出そう”という志を持っていたのである。
体力が明らかに減ってきても
ゴール前の守備で身体を張り続け、ロングカウンターを狙い続けた下田。寺嶋はラスト10分で明らかに疲弊し、腰に手を当てる場面もあったが「足がつっているのは仲間も同じ。みんなを助けたい」と言い聞かせ、「体力が減ってつらくても、何とか仕掛けてほしい」との窪田監督のメッセージを体現しようと必死だった。
「特に後半は『みんなが奪ったボールをお前につないでくれるから、そのボールをシュートに持っていくことがお前の仕事だ』と伝えました。それをチームのみんなも理解しているから、必死に守って“洸に渡そう”という意思を感じさせてくれました」(窪田監督)