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静岡の高校サッカー“奇跡の8人勝利”は美談なのか 「なぜ1年生部員がゼロなの?」
posted2020/10/06 17:01
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Satoshi Shigeno
筆者が位置した高台から真下に、下田高校のベンチがある。0-2で前半を終えた“下田エイト”はハーフタイム中に水分補給をしながらコミュニケーションを取っていた。
「もう少し攻めていきたいね」
「まずはシュート1本までつなげよう」
察してもらえるとは思うが、下田の前半のシュートは0本である。飲水タイム後は守備が整備されてピンチの数が減ったとはいえ、ペナルティーエリア侵入すらほぼ皆無だった、と書けばどれだけつらい戦いを強いられていたか分かってもらえるだろう。
それでも後半に入ると、下田はさらなる粘りを見せる。
ゴールを奪うためのゲームプラン
惜しかったと感じたのは、後半15分過ぎのシーンだ。
自陣ペナルティーエリア付近やや右で下田の選手がボールを奪うと、躊躇することなく鋭い弾道のロングボールを前方に送り込む。この瞬間、小山高の最終ラインはエースでキャプテンの寺嶋を複数人でケアしていたとはいえ、ラインをかなり高く設定していた。このボールに寺嶋がいち早く反応。結果的に相手GKが先に蹴りだしたとはいえ、その判断が一瞬でも遅れていたら――何かが起こってもおかしくなかった。
押し込まれ続けたのは前半とは変わりなかったとはいえ、縦へ(といってもターゲットは1トップの寺嶋のみなのだが)素早くボールを送り込むことで、何とか活路を見いだそう、そんな意思を感じる連係だった。
なおこのゲームプランは勝利を挙げた1回戦(1-1)でも実行していたのだという。おさらいになるが、PK戦の末勝利した1回戦で何が驚きかというと、同点ゴールはセットプレーのワンチャンスに懸けたのではなく、流れの中からエースでキャプテンの寺嶋がゴールを陥れたこと。右サイドをドリブル突破した寺嶋がニアサイドを打ち抜いた。