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静岡の高校サッカー“奇跡の8人勝利”は美談なのか 「なぜ1年生部員がゼロなの?」
 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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posted2020/10/06 17:01

静岡の高校サッカー“奇跡の8人勝利”は美談なのか 「なぜ1年生部員がゼロなの?」<Number Web> photograph by Satoshi Shigeno

試合後、自分たちで用具を運ぶ下田高校の選手たち。部員数減少の影響はこんな形でも出ている

「運動部に入る1年生が少ないんです」

 下田高校は学校の方針として進学など卒業後の進路を重視していることもあり、夏のインターハイ予選で引退するか、選手権まで続けるかを選択する。そこで3年生すべてが引退を選んだ。それでも窪田監督は出場の可能性を少しでも残しておくため、メンバー登録だけは済ませていた。そこに教育者であり指導者でもある葛藤を感じた。

 そして寺嶋は運動部の置かれている状況、特に1年生がいないことについてこう話しつつ、前を向いた。

「他競技も含めて、運動部に入る1年生が少ないんです。その中でもサッカーは11人のチームスポーツで、人数が多く必要な競技なので、厳しいところはありました。2年生でも勉強などで抜けるケースもあったり、誰か体調不良やケガ人が出たりすると、練習メニューも絞られてしまいます。試合形式の練習もしたかったなと思います。……ただ、8人でできることはやったので、後悔はありません」

別地域のサッカー部へと流れてしまう

 また、遠路はるばる応援に駆け付けた(下田から小山までは自動車で2時間ほどかかるという)関係者から、考えさせられる話を聞いた。

 サッカーどころと知られる静岡県だが、伊豆地区は中学校のサッカー部が数少ない。もしそこでセンスを感じさせる選手がいたとしても、沼津などのサッカー部の強い学校へと流れてしまうのだという。実際、下田の8人の中には高校からサッカーを始めたという選手もいるようだ。

 ちなみに小山vs.下田が終盤に入ったタイミングでのこと。第2試合を戦う2チームがピッチ横でウォーミングアップをしていたが、伊豆との近隣地区である両チームともに少なく見積もっても20~30人はいた。近い地域でもこれだけの格差があるのだ。

 窪田監督は囲み取材で、野球部が夏の甲子園で組むような合同チームを考えたことはなかったのか? と質問を受けている。

 その選択肢も考えたそうだが「最も近くのサッカー部がある高校でも車で1~2時間かかります。移動時間に加えて、周囲と合わせていくトレーニングを継続的に行うのが難しい面はあります」と言っていた。少子化もあってどの運動部でも部員数が減少傾向にあるとはよく聞く話だが、その厳しい現実が、地方のサッカー部で急進しているという事実を目の当たりにした。 

【次ページ】 “美談”にしていいものだろうか

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