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千賀、甲斐……250万円級の育成選手が“ドラ1”級に ホークスの「スカウティングの極意」とは
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/09/21 11:30
2010年に育成選手として入団した千賀滉大は、今や球界のエースに
ずば抜けたもの、つまり、プロで勝負できるだけの武器を2つ以上持っている選手は支配下ドラフトで指名され、その武器が1つだけの選手は育成ドラフトで指名されている。’05年の育成ドラフト開始以来、ソフトバンクに入団した選手たちを辿っていくと、そうした傾向が見てとれる。
甲斐は「鉄砲肩」、牧原は「快足」と、それぞれ武器を1つずつ持って育成入団し、そこに足がかりを作っておいて、そのほかの要素を根気強く伸ばしてきた。
スカウトからコーチに選手の課題が伝わる。
ソフトバンクの春季キャンプでは、練習中のグラウンドで、スカウトとコーチが話し込んでいる場面をよく目にする。残念ながら、他球団ではあまり見ない光景だ。
指名する前から、もう育成が始まっている
たとえば大竹は早稲田大の1、2年時には絶対的なエースだったのに、それ以降、打ち込まれる試合の連続で、自信喪失していた。その大竹を’17年の育成4位で指名した時は驚いた。球団関係者が言う。
「大竹は、調子が落ちていた理由がはっきりしてましたから。フォームの崩れです。右足のヒザが早く前を向いてしまう。だから、タメが効かずにリリースで瞬発力が出ない。もともと1年生で早稲田のエースをやってたぐらいですから、ピッチングセンスはあるし、頭はいい。直せば使える。それはわかってました」
アマチュア時代の情報、状況がスカウトから的確に現場のコーチに伝わる。これもソフトバンクのチーム力であろう。このチームのスカウティングの肝になっているのは、こうした選手の情報を分析する「インテリジェンス」なのだろうか。
柳田悠岐が2位指名された’10年、その年、間違いなく九州ナンバーワンの鉄砲肩と評された捕手が大分の楊志館高校にいた。
それが甲斐だった。
敏捷性を生かした捕球にガッツに溢れたプレースタイル。心惹かれるものはいくつもあったが、当時の甲斐は気分にムラがあって、プレーが安定しなかった。そんな甲斐をある日、ずっと見守り続けていた担当スカウトが一喝した。
「プロでやりたいって言ってるくせに、いつまでフワフワしてるんだ。人のせいにしてないで、自分で自分を作ってみろ! 野球と真っすぐに向き合う気があるなら獲ってやる!」
そこから彼の意識は少しずつ、プロ野球選手へと変わっていったという。
ソフトバンクの育成ドラフトは指名する前から、もう育成が始まっていたのだ。
(Sports Graphic Number 989号より)