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これが「ドラフト最注目の高校球児10人」だ! ギータのようなスラッガー、“超進学校”の190cmショート……
posted2020/09/18 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
甲子園球場、東京ドームの2会場で、1週間を置いて行われた「プロ志望高校生合同練習会」。
甲子園の2日目。午後のシートバッティングの最後で、猛烈な夕立に襲われた。
「甲子園」は、スコアボードの旗が右から左になびいていれば、「浜風」、つまり海から風が吹いている時で、まず天気の心配はない。逆に、冷たい風が吹いてきたな……と思って旗を見ると右向きに変わっていて、ネット裏の後方、六甲の山並みの上空に黒雲がわいてきたら、もうダメだ。
ポツリ、ポツリ……と来たかと思ったら、一気にドバーッとスコールが始まる。この日もそうだった。外野スタンドとスコアボードが、あっという間に真っ白になって、グラウンドは池のようになり、最後の1組のシートバッティングは、室内練習場で行われることになった。
急な状況の変化は、人を動揺させる。
「オーディション」の場が「室内」になって、選手たちのパフォーマンスに揺らぎは見えるのか。彼らのメンタルを垣間見る「リトマス試験紙」になるのかもしれない。
(6)加藤翼(投手・帝京大可児)
左腕2人が投げた後にマウンドに上がったのが、春先に153キロをマークしたという加藤翼(投手・帝京大可児・179cm76kg・右投右打)だ。
5球の投球練習から、ものスゴい捕球音が室内練習場に響き渡る。室内は音が反響するし、狭い場所で見る速いボールは実際より一段とスピードが増して見える。屋外では生じないアドバンテージがいくつかある上に、左腕2人の後の登板で、打者は戸惑いがちだ。
加藤翼は投げる前から、何ポイントか稼いでいるように見えた。
腰の位置を高いままに保って、小さめに踏み込んで猛烈な腕の振りでパーンと投げ下ろす。跳ねるようなフィニッシュが、オリックス・山本由伸のようだ。どちらかといえば上体のパワーで投げるタイプだから投げ込むゾーンは高い。しかし、そこへ伸びていく速球は強く、イキがいい。
室内だから、スピードガンの表示はないが、目測でも145キロ前後。打者の体感は150キロ近いはずだ。ミットに入ってからスイングしているように見える差し込まれぶりだった。
スライダー、カーブ、チェンジアップ……すべての持ち球を勝負球に使って、ヒット性の打球を許さない。
セットからの投げっぷりを見ていて、アレッ……と思った。ベルトのバックルあたりで、グラブの中にボールをセットして、そこからモーションを起こし始めるまでの「時間」に、バリエーションをつけている。
セットして3秒で投げたり、5秒持ったり、時にはセットしてすぐクイックモーションで投げたり。「間(ま)」を作って投げているから驚いた。
投手の仕事は、打者のタイミングを外すこと。ラスト1球、右打者の外角低めに伸びて見逃し三振を奪った快速球は、間違いなく今日の彼のベストボールだった。
オーディションは、終わり良ければ、すべて良し。 見る者の記憶に最高の印象を刻み付けた加藤翼の「31球」だった。