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全米男子決勝は“心を捉える消耗戦” 新王者ティーム誕生、BIG3vs.次世代は新展開へ
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2020/09/15 18:00
厳しい意見も並んだティームとズべレフの決勝だったが、フルセットマッチの激闘だったことは間違いない。
「すごくホッとした。超タフだった」
四大大会初優勝の絶好のチャンス。それが分かっているから、硬くなる。緊張の中での試合は普段の何倍も体力を削り取ったはずだ。最終的にこの試合でティームは5206m、ズベレフは5138mを走った。終盤の両者の失速は致し方ない。
互いにチャンスをふいにする展開に終止符を打ったのはティームだった。バックが打てなければフォアがある、とばかりに、鬼神のように打ち込んだ。強引に回り込んで強打を放ち、ネットに出てくる相手にフルスイングのパスを見舞った。相手のエラーでマッチポイントをものにしたティームは、コートに大の字になった。
「すごくホッとしたんだ。試合中はものすごいプレッシャーだったし、感情が揺れ動いた。肉体的に超タフだった。それに加え、(渡米後、“バブル”の中で過ごした)4週間は決して楽ではなかった。精神的にも肉体的にも大変だった」
親友同士のハグ、チリッチ以来の新王者
つかの間、解放感を味わったティームに、ズベレフが歩み寄る。2人は大会の約束事だった「ソーシャルディスタンシング」を無視して抱き合った。親友同士の、歴史的な試合にふさわしいエンディングだった。
歴史に残る逆転劇というだけではない。四大大会で新しい王者が誕生するのは、'14年全米優勝のマリン・チリッチ以来、22大会ぶりだった。
ナダルは北米のコロナ禍を避けて欧州にとどまり、欠場。ロジャー・フェデラーは故障で欠場。優勝争いの本命ジョコビッチは試合中にラインアンパイアにボールを当てて失格処分と、BIG3を欠く優勝争いではあったが、男子テニスにひとつの節目が刻まれた。ティームは'90年代生まれの選手としても四大大会初優勝となったのだ。