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藤井聡太の将棋はどこが美しいのか。「芸術作品」と評す飯島七段に聞く。
text by
中村徹Toru Nakamura
photograph byKYODO
posted2020/09/08 19:00
数々の記録を更新し続ける藤井聡太。現在では史上最年少での二冠と八段昇段も決めている。
「羽生マジック」と呼ばれる妙手を繰り出す。
「可能性は大いにあります。渡辺さんが第1局で、王手に対して2一玉と逃げた局面がありましたが、普通なら3一玉が第一感なんです。渡辺さんは、3一玉だと藤井さんが何か用意があるのでは、と疑心暗鬼になったのではないでしょうか。
相手に自分の力を信用させる、というのは勝負において非常に重要なんです。
例えば往年の羽生さんは苦しい局面から『羽生マジック』と呼ばれる妙手を繰り出して何度も逆転勝ちしてきました。対局相手もそれを重々知っているから、読みにない手を指されて動揺してしまう訳です。
百戦錬磨の渡辺さんは、羽生さんとも何度も壮絶なタイトル戦を戦い、相手を信用しすぎる事の危うさを良く知っているはず。これは本人に確認しないと分かりませんが、僕の目には、その渡辺さんでも藤井さんの終盤力を恐れすぎたように見えました」
世間は空気を一新する出来事を望んでいる?
最後に飯島は、藤井と「時代性」について語った。
「巨人・大鵬・卵焼きという言葉があったように、スポーツや大衆芸能には、その時々の時代を象徴するようなスターが出現する事が多々あると思うんです。
新型コロナで閉塞感が強い今、世の中の人は『藤井君がチャンピオンになるところを観たい』と、空気を一新するような出来事を望んでいるのではないでしょうか。
渡辺さんにとってはアゲンストだと思う。ただ、彼はヒールが似合います(笑)。かつて羽生さんと、勝った方が初代永世竜王という大一番を戦った時も、“羽生ノリ”の予想に対して将棋界初の3連敗からの4連勝という離れ業を演じた事もありました。
やすやすと藤井さんに負けるとは思えません。いずれにせよ、令和を代表する名勝負になる事は間違いないです」
棋界の歴史が今、大きく動こうとしている。