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藤井聡太の将棋はどこが美しいのか。「芸術作品」と評す飯島七段に聞く。
posted2020/09/08 19:00
text by
中村徹Toru Nakamura
photograph by
KYODO
「いやあ、鳥肌が立ちます。この将棋は、善悪を超えた芸術作品だと思います」
6月4日、将棋の8大タイトルの1つである棋聖戦の挑戦者決定戦で、藤井聡太七段(17)が永瀬拓矢二冠(27)を破り、タイトル初挑戦を決めた。
終盤の入り口で、藤井が指した62手目「2七銀成」という一手に対し、解説していた飯島栄治七段は感に堪えぬ口調で冒頭の言葉を発した。注目の対局だっただけに、一般のワイドショーなどでもこの発言は取り上げられた。
藤井はそれから4日後に行われた棋聖戦五番勝負の第1局で渡辺明棋聖(36・他に棋王と王将も保持する三冠)との157手の大熱戦を制した。
シリーズであと2勝すれば、屋敷伸之九段(48)の持つ18歳6カ月という最年少タイトル獲得記録を大きく更新する事になる。
渡辺は現在の将棋界で最強と目される。
史上5人目の中学生プロ棋士としてデビューすると、無敗のまま29連勝を飾り、全棋士参加棋戦である朝日杯将棋オープン戦2連覇。
さらに名人挑戦に繋がる順位戦ではデビュー時のC級2組からB級2組へと出世し、着実に王者への道のりを歩んできた藤井。
今回は満を持してのタイトル初挑戦である。
一方で初戦を落としたものの、迎え撃つ渡辺は現在の将棋界で最強と目される棋士だ。
「藤井将棋」を“芸術”と評した飯島は、実は渡辺とはプロ入り(四段昇段)が同期だ。
2年前に渡辺が静岡市で行われた順位戦最終局で敗れ、A級から陥落した翌朝のこと。解説の仕事で現地に滞在していた飯島は渡辺と観光に出かけ、早咲きの河津桜を眺めながらビールを呑み、「戦友」の傷を癒した事もあった。