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藤井聡太の天才性を渡辺明が評した。
「羽生さんに近いところを感じる」
posted2020/06/28 20:15
text by
北野新太Arata Kitano
photograph by
Takashi Shimizu
将棋の神様は極端に早熟を好む。
史上最年少棋士・藤井聡太四段の29連勝は、語り継がれてきた真実を劇的に証明する出来事だった。
渡辺明竜王・棋王は言う。
「天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しいと思います。いちばん若くして棋士になって、勝ちっぷりが普通じゃない。大棋士になる条件は当然満たしていますよね。買うなら『数十年に一人の天才』というオッズが人気になるのは当然です」
20世紀以降の約120年間で約350人の棋士が誕生したが、中学生のうちに四段(棋士)になった者はわずか5人しかいない。5人はいずれも棋史に名を残している。
1958年度に18歳でA級昇級を果たした加藤一二三九段、’83年度に史上最年少名人となった谷川浩司九段、’95年度に史上初の七冠制覇を達成した羽生善治三冠、’04年度から最高位「竜王」を9連覇した渡辺、そして今年度、公式戦29連勝の新記録を樹立した藤井である。前者4人はそれぞれの時代を築き、最後の一人は後継の期待を受けている。
「高卒で3割30本超えのレベル」
藤井は昨年10月、棋士養成機関「奨励会」を突破して史上最年少の14歳2カ月で四段昇段を果たす。同年12月に「ひふみん」こと加藤九段とのデビュー戦を勝利で飾ると、連勝街道を走り始める。
デビュー後の新記録である11連勝を達成すると、その後も半年間にわたって勝ち続け、’87年度に神谷広志五段(現八段)が樹立し、「不滅」と言われた28連勝の大記録を塗り替えてしまった。将棋に「棋戦」という概念が生まれてから80年近い歳月の中、誰も到達出来なかった領域に、表情に幼さを残す中学3年生が足を踏み入れてしまったのである。
「タイトルを目指そうという新人がデビュー直後に勝率7、8割以上勝つのは当たり前なんです。藤井君が8割程度なら棋士間で評価は得られるものではありませんでした。9割を超えると『ちょっと違うな』と思うようになりますが、デビューから負けずに29連勝したわけですからね。驚きました。プロ野球に例えるなら並の新人王の成績では当然なくて、高卒で3割30本を超えるレベルです。2割8分20本程度じゃない」