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コロナと気候変動とトレランの関係。石川弘樹が今も山を整え続ける理由。 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byHiroki Ishikawa

posted2020/09/02 07:00

コロナと気候変動とトレランの関係。石川弘樹が今も山を整え続ける理由。<Number Web> photograph by Hiroki Ishikawa

石川弘樹はランナーであると同時に、トレイルの整備にも力を入れている。その両立はトレランにとって重要な要素だ。

増えているイノシシや熊の対応は?

「登山道やトレイルを荒らすという点ではイノシシの被害が目立ちますね。4、5年前にはほとんど気がつかなかったんですが、信越五岳地域では明らかに増えています。イノシシはミミズとか根も食べるので登山道、林道などもボコボコに掘り起こすんですよ。今まできれいだった道がそうなると水の流れができたりしてトレイルに溜まって、ぐしゃぐしゃになり、場所によって土砂崩れの原因になることも考えられます」

 土を掘り起こすのはイノシシの習性でもあるが、気候変動の影響で山の中での餌が少なくなっているのも要因のひとつと考えられる。また、温暖化によって暖冬となり山間部の積雪量が少なくなることで越冬する個体数が増えている。

 さらに最近は山に住む集落が高齢化することで下山する人が増えた。すると自然と人間との境界線が下がり、動物の行動範囲が広がって山の麓に出没したり、林道を荒らしたりするようになる。近年、よく報道されるようになったイノシシや熊の街への出没は餌の問題だけではなく、そういう影響もあると考えられる。

熊がいるのは前提、重要なのは遭遇しないこと。

「熊はコースの整備中、見かけることはよくあります。でも、トレイルレースで熊に襲われるなどの事故例は、僕は15年レースをプロデュースしてきていますけど、経験がありません。ただトレイルに立てている木の標識などをいたずらして壊すことが多いですね。壊れた標識を見ると熊の毛がついています。信州の山は基本的に熊の生息地なので、いることを前提にレースは安全面を可能な限り考えて行っています」

 イノシシや熊などがコースに出てくる可能性は今後もゼロではない。レース中の安全面を担保するために、どんなことをしているのだろうか。

「日中だと熊との遭遇率は低いんですが、日暮れ時や夜間は危ないですね。そのために本当に出やすい場所はコースから外し、トレイルには、まずスタッフが先に入ってラジオやメガホンなど音を鳴らし、においが強烈な蚊取り線香を腰につけて歩きます。そのにおいが嫌なのか、今のところ、熊に間近で遭遇したことはないですね。

 ただ、個人的に判断して熊が出やすいセクションがある場合、トップランナーが来る10分前ぐらいに僕が爆竹のような音が鳴る鉄砲を撃ちながら走り、人の存在を熊に知らせるようにしています」

【次ページ】 トレイルは人が手を入れないと荒れる。

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