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コロナと気候変動とトレランの関係。石川弘樹が今も山を整え続ける理由。 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byHiroki Ishikawa

posted2020/09/02 07:00

コロナと気候変動とトレランの関係。石川弘樹が今も山を整え続ける理由。<Number Web> photograph by Hiroki Ishikawa

石川弘樹はランナーであると同時に、トレイルの整備にも力を入れている。その両立はトレランにとって重要な要素だ。

トレイルは人が手を入れないと荒れる。

 では、コロナ禍はトレイルにどんな影響を与えたのだろうか。

 自粛期間、人は移動を制限され、もちろん山に入る人も激減した。そうなるとトレイルは傷まずむしろプラスなのではと思うのが、そうではないという。

「人が入らず、そのままにしておくとイノシシの被害や草木が伸びたりして、せっかく整った道が荒廃していくように見えますね。トレイルは人が入ることで整い、道が道として維持できるようになる。道を作った以上は人が手を入れていかないといけないんです」

 今、石川はレースが中止になった時間を利用して長野県の信濃町で黒姫山の裏にあたるトレイルの木道新設作業に取り組んでいる。もともと利用者がそれほど多い登山道ではないが、雨などの影響で道が年々泥状態になっているので、そこに枕木を置いて木道を作り、トレイルが傷むのを防ごうとしている。200本近い枕木と木材を購入し、トレイルの入り口までトラックで運び、現地まで人がザックに入れて運ぶ。倒木があればチェーンソーで切り、草刈り機で藪を切り開いていく。

「もう、自分が何屋かわからないですよね」

 石川はそう苦笑するが、そういう行動は森林管理署や行政にもポジティブに受けいれられている。レース後にコースを修復する必要が生じることはよくあるが、自発的に補修していくケースは珍しからだ。
また、最近は地域や行政からトレイルランニングのレースの主催者のマナーについて問題視されることが増えているので、石川たちのように自ら率先してトレイルを作り、整備していくのは地域や行政にとってはありがたいことでもあるのだ。

ブームで地権者などとのトラブルは増加中。

 レースについては「問題が増えてきている」と石川はいう。

 山野の自然を走るトレイルランニングは人気が高く、レースは全国各地で開催されるようになった。ただ、人気が上がればレースをビジネス面を優先する主催者も出てくる。「地域のために」と甘い言葉を語り、ただレースを行うだけのところもあるようだ。その結果、地域と軋轢を生むところも出てきてしまう。

「いろんな大会を見て、思うことは、まず開催告知に至るまでにコース仕様の許認可をとり、トレイルを事前に整備して準備し、大会をやって、メンテナンスをやる。その流れは最低限徹底して欲しいですね。最近は大会後のゴミ拾いさえ、きちんとできていないところもあるので。

 そうなるとどうなるか。私有地であれば、レースが開催できなくなるどころか、普通にトレイルを楽しむことができなくなることもある。そういうことは絶対に避けなければいけない」

 実際に埼玉のある私有地の林道は、健全ではないレースが行われたことで、登山者の入山は許可するが、今後はトレイルのレースはもちろん、トレイルランニング自体を禁止する看板を掲げるようになった。美しい山を走れなくなるのは、トレイルランナーにとって、あまりにも悲しいことである。

【次ページ】 ボランティア活動を参加条件にするレースも?

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